Afleveringen
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声の力は、目に見えないけれど、心に触れる。
飛騨高山発の番組『Hit’s Me Up!』が贈る、新しい物語シリーズ。
この『声優物語/エピソード1』は、一人の少女が“声”という運命に出会い、やがてそれが人生を変えていくまでの軌跡を描いた実話風ボイスドラマです。
物語の主人公・エミリは、幸運を呼ぶ「オッドアイ」をもって生まれ、幾多の選択の中で“声優”という世界に辿り着きます。
「声に想いを乗せる」とはどういうことか。「見えないものを見る」とはどういうことか。
彼女の歩みは、私たちに問いかけます。
あなたの心にも、そっと灯りますように。
※本作はPodcast(Spotify/Amazon/Apple)や『小説家になろう』でもお楽しみいただけます(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:出生】
アナウンサーの実況・絶叫風(宮ノ下さん)
『風が来た。アプローチもよし。さあ、原田。因縁の2回目飛んだ〜!高いぞ、立て、立て、立て、立ってくれ!立ったぁ〜!原田〜!!』
■SE/長野オリンピック実況~赤ちゃんの泣き声がかぶって
26年前、私はこの世に生を受けた。
春というには、まだ肌寒い3月。
数々のドラマを生んだ冬季長野オリンピックが終わり、
日本で初めての冬季パラリンピックが開催されていた。
[シーン2:オッドアイ】
■SE/病院の環境音
病院を退院してから半年後。
私の笑顔を見たママがパパに言った。
『見て、この娘の瞳。オッドアイよ』
オッドアイ。
別名・虹彩異色症(こうさいいしょくしょう)。
左右の眼で虹彩の色が異なること。
オッドアイは『幸運を呼ぶ証』と言われる。
私の場合、右目が海の底のように澄んだマリンブルー、
左目はルビーのように深みのある琥珀色。
パパもママも、神様に幸運を感謝して、心から喜んだ。
幼稚園にいくようになっても、
小学校へ通うようになっても、
ずう〜っとずっと、その気持ちは変わらない。
いつだって私を宝物のように大切にしてくれる。
私への気持ちはメッセージにして子守唄を歌ってくれた。
[シーン3:小学生】
■SE/学校のチャイム〜教室の環境音
それは私が小学校4年生のホワイトデー。
ロッカーをあけると
チョコレートやお菓子、クッキーにくっついている手紙がドサっと下に落ちた。
その頃の私は、小学生ながら
まっすぐ整った鼻筋。
丸みのあるおでこ。
すっきりとしたフェイスライン。
美しい口元。
そして、オッドアイ。
そのすべての要望からついたあだなが「高嶺の花」。
毎日のように男子からコクられ、毎日のように『 ゴメン』と謝る。
美人女優のだれだれに似てるとか似てないとか。
そんな話ばかりがとびかうクラス。
毎回断ることに疲れてしまった私に、
ある日、担任の先生がつぶやいた。
『エミリは声を生かすといいんじゃない?』
声?
考えたこともなかった。
いつも褒められるのはこの容姿。
ママも自覚して、いつもお顔の保湿ケアをしてくれてたし。
『エミリの声、透き通ってて、耳に入るとすごく気持ちいいもの』
へえ〜、そうなんだ。
その頃、私はクラシックバレエにのめりこんでいて、
早朝も放課後もスタジオでお稽古づけの毎日。
だって、パリのオペラ座バレエ団に入るのが夢だったの。
『エミリなら、きっと声で人の心を動かせるわ』
声かあ。
初めて自分の声を意識する。
あー。あー。あ〜〜〜。
いや、歌、じゃなくて、声、よね。
声のお仕事ってなんだろう?
アナウンサー?ラジオのパーソナリティ?朗読?
『いろんな本を、声に出して読んでみたら』
こうして私は、朗読を始めた。
元々お芝居も好きでアニメのセリフよく真似してたから、
私の朗読は、リアリティがあって聞きやすいと評判に。
高山市内や岐阜県内の朗読コンクールで、何度も優勝した。
その頃、テレビで知ったのが『声優』という言葉。
声優?俳優じゃなくて?
アニメや映画、ゲームなどのキャラクターに声をあてる仕事。
キャラクターの感情や個性を表現して、物語や場面に命を吹き込む。
重要なエンターテインメントの一分野。
知らなかったなあ。
[シーン4:大学卒業】
■SE/キャンパスの環境音
頭の中に声優とダンサーという2つの未来を描いたまま、
私は東京にある超難関の女子大を受験した。
結果は・・・そう、合格。
だって、言葉にできないくらいホントに勉強したんだもん。
大学を卒業したら、いきなり声優事務所の門をたたくとか
オペラ座バレエ団を受験するとかはしなかった。
まずは手堅く上場企業でマーケティングの会社で働き、
生活の基盤を作る。
そんな中で見つけた1枚のポスター。
ショッピングモールに貼られた声優オーディションの募集告知だった。
大きく書かれた『未経験者大歓迎』『プロアマ問わず』『人気声優と共演』の文字。
これだ!
同じようなコピーは街中でよく見かけたけど。
なぜだかピン!ときて、すぐさまエントリーした。
2年目で2回目だというこのプロジェクト。
過去に作られたアニメをすぐさまチェックする。
10分未満のショートアニメ。
キャラクターはどこにでもいるような家族。
どこにでもあるような、ちょいエモのストーリー。
だが、不覚にもホロリとしてしまった。
そうか、こういう感じなんだな。
今年の物語は続編という感じでもないし。
そういえば、課題セリフは・・
『たいせつなことは、目にはみえないんだよ。
ものごとはハートで見なくちゃいけない、ってこと。
だから心を開いて、夢に手を伸ばそう』
ふむ。
サン・テグジュペリ『星の王子さま』か・・
これは、キツネのセリフだ。
今回は、劇中劇でもやるのかな。
いろいろシミュレーションしているときにオーディションの事務局から
メールが届いた。
『一次審査合格』
やった。
でも、ここまでは想定内。
公開で審査される、ファイナルオーディションで勝たなくちゃ。
私は毎日、頭の中でシミュレーションしながら、ファイナルの日を迎えた。
公開オーディションの待合室。
当日渡された課題セリフを下読みする8名のファイナリストたち。
プロ・アマ問わずってことだったけど、確かに玉石混交って感じ。
そして公開オーディションのステージ。
『自分が舞台に立つことなんて考えてもいないけど、
こうしてみんなのお芝居のそばにいるのが心地いい。
今日は、友だちの晴れ舞台。
私は美術係・背景係だから一生懸命、絵筆を走らせたわ。
少しでも彼女のお芝居に花を添えたいんだもん。
思えばこの1か月、ずうっと彼女に付き合って
一緒にお芝居の練習してきたなあ。
私も一緒にあの舞台に立てたら・・・
ううん、なに考えてるんだろ、私。
だめだめ、もうすぐ1ベル鳴っちゃう。
背景の位置、チェックしとかなきゃ。
あ、先生。
え?
いまなんて?
代役?
私が!?
そんな・・・無理です!
え、でも、でも・・・
わ、わかりました・・・
みんな!?そうだったの!?
私のためにセッティングしてくれたの?
ありがとう・・・。
そうか、これだったんだ。
一番大切なものは、目には見えない。
こころでみなくちゃ、ものごとはよく見えないんだ!』
なぜか私、感情移入しすぎちゃって、目頭が熱くなっちゃった。
このあとすぐに結果発表。
『声優オーディション、グランプリは、エントリーNo.6番、エミリさん!』
合格・・・
いや、自分でも自信があったし、想定内のはず。
なのに、涙が止まらなくなった。
MCは「エミリさん、涙が・・」なんて言うし、
ゲスト声優は「私たちと同じ景色を見てください」なんて言うから
よけい感無量になっちゃったじゃない。
ついに人生初のアニメに出演か・・しかも主演で!
[シーン5:アフレコスタジオ】
いよいよ私が初出演・初主演するアニメのアフレコ。
私は指定された時間の5分前にスタジオへ入る。
ニコニコした笑顔で迎えてくれたのは音響監督。
音響監督というのは、アフレコスタジオの中で一番偉い人らしい。
私は、ドキドキしながら、スタジオのアナブースへ。
ヘッドフォンの使い方を監督自ら優しく教えてくれる。
『返しの音量は大丈夫?』
「大丈夫です」
『映像の中に、名前のテロップがでてくるだろう?』
「はい」
『これは、ボールドと言って、キャラクターの喋るタイミングを表しているんだよ』
「へえ〜」
『まあ、でも全然気にしなくていいからね』
じゃあ、説明すんなよ。なんて(笑)
音響監督が丁寧に教えてくれる。
この人、どんな声優さんにも、こうやって手取り足取り教えてくれるのかしら。
『よし、じゃ本番いこうか』
「はい!」
ビデオコンテの、半分だけ作画が入った映像を見ながら
主人公の声をあてていく。
終始笑顔の音響監督。
無事にアフレコが終わってから握手をして、一緒に写真を録る。
エレベータで帰るとき、
音響監督は私にだけ聴こえるようにそっとつぶやいた。
『エミリ、会いたかったよ』
え?
『オーディションを見て、どうしても会いたかったんだよ』
どういうこと?
『僕が作った課題セリフの原稿。
ちゃんと思いが届いたのは君の声だけだった』
そんな・・うそ!
『よければ、このアニメ以外にもいろいろ手伝ってくれないか』
この人、本気?
でも、目がマジだ。
『大切なものは目には見えない。
心の目、というのは君のオッドアイのことだったんだね』
あ・・
『今日は単なるスタート地点。
これから長い道程だから、よろしく』
私の手を握り、真剣な眼差しでささやく。
この日から、私の長い長い声優人生がスタートした。
幸運を呼ぶオッドアイ。
いつまでもその輝きを失わずにいてくれますように・・
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クリスマス。それは、誰かと過ごすための日。家族と、恋人と、あるいは、大切な“誰か”と。
でもその“誰か”が、もしこの世にいなかったとしたら……あなたは、どんなクリスマスを過ごしますか?
この物語は、飛騨高山の静かな町並みを舞台に、クリスマスイブに亡くなった一人の女性と、残された夫が紡ぐ、“もうひとつのクリスマス”の物語です。
愛する人を失った悲しみ、それでも前に進まなければならない優しさと勇気。そして、ほんの少しの奇跡。
物語を通して、あなたの心にも小さな灯がともりますように。
さあ、耳をすませてください。きっと、あなたにも“アナザー・クリスマス”が届くはずです(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:享年のクリスマスイブ】
■SE/救急車の音〜サイレントナイト
クリスマスイブの夜。
私は死んだ。
交通事故。
救急車は、赤鼻のトナカイのように
赤色灯をまわしてストリートを駆けていく。
鈴の音ではなく、けたたましいサイレンを鳴らして。
お守りのさるぼぼを握りしめたまま、私は息をひきとった。
知らせを聞いて駆けつけた夫は、
変わり果てた妻の姿を見て立ち尽くす。
顔にかけられた白い布をめくり、何度も何度も名前を呼んだ。
やがて、物言わぬ妻の髪を優しく撫で、長い長いお別れのキスをする。
クリスマスイブを境に、夫の瞳からすべての光が消えていった。
[シーン2:一周忌のクリスマスイブ】
■SE/クリスマスソング
私がこの世を去ってから1年。
今年もまたクリスマスがやってくる。
死んだあとも、私はずうっと夫を見守っていた。
最初は驚いたけど。
あれ?私、死んでないの?
夫はいつも私に向かって手を合わせる。
仏壇に置かれた私の遺品。
最後まで握りしめていたさるぼぼのぬいぐるみが
小さな仏壇の中に飾られていた。
そう。
私は、さるぼぼを通して夫と毎日顔を合わせていたんだ。
あなた!
ここよ!私はここ!
どんなに声をかけても、夫には何も伝わらない。
夫の時間は、クリスマスイブの日から止まってしまった。
毎日毎日、痩せて生気がなくなっていく夫。
きっとまともな食事なんて食べてないんだろうな。
だめ。もう見てられない。
なんとか夫に思いを届けたいと願いながら、気がつけばもう1年。
私の一周忌。
イブの夜に奇跡はおこった。
いつものように夫は、さるぼぼを愛しそうに抱きかかえる。
実はこのさるぼぼは、私の手作り。
腹掛けは縫い付けずに、背中に紐で結んである。
表には「飛騨」という文字ではなく、私の名前。
この日、夫の手の中で、ゆるくなっていた腹掛けの結び目がほどけた。
その瞬間、私の体は自由になる。
気がつくと目の前に、夫の背中が見えていた。
私は、さるぼぼを抱く夫の背中越しに声をかける。
「あなた・・・」
振りかえる夫。
後ろに立つ私と目があった。
夫は驚いて声がでない。
その代わり、瞳からは涙が溢れ出す。
「私、あの日からずうっとここにいたわ・・・」
私は夫にすべてを話した。
事故のこと・・
いつでもさるぼぼの中から夫を見ていたこと・・
クリスマスに起きたこの奇跡のこと・・
根拠のない予想だけど、きっとクリスマスが終わると奇跡は消えてしまうだろう。
それを夫にも伝えた。
夫は瞳を潤ませながら、大きくうなづく。
そして、私の手をとり、
『クリスマスだけの奇跡だってかまわない。
これからはもう、僕たちはいつでも一緒だよ』
と言って、小さく微笑んだ。
[シーン3:三周忌のクリスマスイブ】
■SE/街角のクリスマスソング
私がこの世を去ってから2年。
彼と私はいつでも一緒に過ごすようになった。
彼はさるぼぼをキーホルダーにして、毎日持ち歩く。
自転車で仕事に行く時も帰るときも。
古い町並でみだらしだんごを食べ歩くときも。
出張で特急ひだに乗るときも。
片時も離れずに彼にくっついて過ごす、充実した日々。
生きていたときよりも、彼といる時間、長いんじゃない?
寝る前には、枕元に私を置いて、
その日あったことをああだこうだと話し合う。
いや、正確には、一方的に彼が話す。
もちろん、年に一度は、短い逢瀬を重ねる。
彼が用意したショコラのクリスマスケーキ。
蝋燭に火を灯し、2人で吹き消す。
毎年の幸せなルーティンは、いつまでも続くように感じていた。
[シーン7:七周忌のクリスマスイブ】
■SE/街角のクリスマスソング
私がこの世を去ってから6年。
街角にクリスマスソングが流れ始めるころ。
彼と私の間に小さな変化が現れた。
会社で彼は、SDGsを推進するグループのリーダー。
その新しいメンバーに、1人の女の子が入ってきた。
彼はバッグをいつも、会議デスクの上に置く。
さるぼぼのキーホルダーが表になるようにして。
だから、彼の真ん前に座った彼女の表情は手に取るように伝わってきた。
”あ、好意を抱いている”
オンナの勘?なのかな・・
私は確信した。
彼は、まったく気づいていない。
まったくオトコって鈍感なんだから。
それから、何かあるたびに、彼女は彼に話しかけるようになった。
仕事の相談から、飼っているネコの困りごとまで。
彼はその都度、真面目に相談にのる。
そうそう。
私も彼のこういうところに惹かれたのよね。
ある日、彼女はロッカールームで彼に小さな包みを渡した。
”お弁当だ”
包みをあけて驚く彼に彼女は感情を抑えながら、
『1人暮らしだと、どうしても食材が余っちゃって』
『ほかに食べてくれる人もいないし』
『賞味期限があるけど捨てられなくて』
うまい!
さりげなく、1人暮らしで、彼氏がいなくて、食ロスも考えて、って。
こう言われたら、彼の立場で断れないだろうな。
彼は少し困ったような顔をして、私の方を、
いや、さるぼぼの方を見る。
私は渾身の力で、バッグの裏側へもぐりこんだ。
『ありがとう』
って声が聞こえてきたということは、受け取ったんだな。
嫉妬の気持ちは・・・思ったより強くない。
それより、彼女の本心がどうしてもききたい。
お弁当をきっかけに、彼女と彼の距離は近くなっていった。
心の話だけではない。
彼女は会議で彼の横に座るようになっていた。
前を向き、積極的に発言しながら、ちらちらと彼に視線を向ける。
手作りのお弁当はいまや週3回。
休憩中の会話では、彼の嗜好をさりげなく聞く。
”きっとこりゃ、クリスマスプレゼント考えてるな”
イブを一週間後に控えた週末、ロッカー室で彼女は彼に声をかけた。
『クリスマスって、予定ありますよね?』
”きた”
『ごめん』
”え・・”
『イブとクリスマスはだめなんだ』
即答。
あ〜あ。
ほら、彼女、泣きそうになりながら、必死で笑顔つくってる。
かわいそうに。
『ですよねえ。ヘンなこときいてごめんなさい』
『あ、プレゼンの資料作らなきゃ』
『失礼しました』
もう少し言い方ってものがあるのに。
あれ?
私、なに考えてんの?
彼は私を自分の方へ向けて、笑顔を見せた。
”そうか・・”
■SE/街角のクリスマスソング
クリスマスイブの前日。
遅くに会社を退社した彼は、歩道に佇む女の子を見つけた。
”彼女だ”
彼女は彼の元に歩み寄り、大事そうに抱えた小さな包みを手渡す。
まだ少し暖かい包みから、甘い香りが漂ってくる。
『これ、よかったら食べてください』
『迷ったけど、結局焼いちゃいました』
『1人でも2人でも食べやすいサイズです』
『あ、あの・・』
彼がなにか口にする前に、彼女は踵をかえす。
小走りでクリスマスの喧騒の中へ消えていった。
■SE/時報「午前0時ちょうどをお知らせします」
時計の針が真上を指す。
クリスマスイブになった瞬間、私は彼の前に姿を現した。
『会いたかった』
「私もよ」
私はずうっと考えていた思いを彼に伝える。
「今までありがとう」
『え?どういうこと?』
「お別れよ」
『そんな・・どうして?』
「そろそろ前に進むことを考えなくちゃ」
『彼女のこと?ボクは別に・・』
「今までありがとう」
『え?どういうこと?』
「わかってる。それだけじゃないの。
あなたは、自分の幸せを考えなくちゃだめ」
『ボクの幸せは君と一緒にいること』
「それもわかってる。
でも、それだけじゃない」
『そんな・・』
「それにね、私にも時間がないのよ」
『どうして?』
「うえに上がるときが近づいてるってこと」
『うそだ?』
「うそじゃない。ホントよ。
上に明るい光が見えるもの。
一緒に映画も観たじゃない」
『君がいなくなったら、ボクはどうしたらいい?』
「心配しなくても大丈夫。
私と出会う前を思い出して。
あのときと同じ気持ちで。
ニュートラルになって過ごしなさい。
きっと、すばらしい人生が待っているわ」
『わかった、わかったけど、もう少しだけ待って』
「ううん、だめ。
もう行かなきゃ。
いい?
私が消えたら、あなたから電話しなさい。
今晩、イブの夜。
よかったらお茶でも、いえ、お酒でも、って。
私を誘ったときのように。
あの子とならきっとうまくいくわ。
私、人を見る目あるのよ」
彼は瞳を潤ませて、嗚咽し始める。
私は、後ろ髪をひかれながら、彼の頬に優しくキスをした。
「私の一番の願いは、あなたが幸せになること。
願いをかなえてくれる?
さるぼぼは国分寺でお焚き上げしてもらって。
今までありがとう。
元気でね」
私はゆっくりと、明るい方へ上がっていく。
今までの人生と、神様がくれた6年間に感謝して・・・
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Zijn er afleveringen die ontbreken?
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ようこそ、『恋は借り物』の世界へ。この物語は、飛騨高山を舞台にした"ちょっと嘘から始まる、本気の恋"のお話です。
仕事に追われる日々の中で、ふと舞い込んできた実家からの連絡。「見合いをしろ」──というじいちゃんの遺言をきっかけに、主人公・タツヤは“彼女代行サービス”で出会ったエミリと共に、ふるさと・高山へ帰ることになります。
嘘から始まった関係が、果たして「本物」になるのか?そして、“恋は借り物”なのか、それとも“借り物が恋になる”のか──
Podcastで聴いてくださる方も、「小説家になろう」で読んでくださる方も、どうぞ、ちょっぴり笑えて、ちょっぴり切なくて、ちょっぴりあったかい、そんな冬のラブストーリーを、お楽しみください(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:東京のデザインオフィスにて】
■SE/オフィスの環境音〜電話の着信音
「もしもし、あ、父さん?」
冬の足音が近づく頃、いきなり実家から電話があった。
しかも、その内容は・・・
「え?じいちゃんが!?・・」
じいちゃんの訃報。
かなりの高齢でずうっと寝たきりだったから、そんなに驚かなかったけど・・
「お葬式はいつ?」
「明後日?明後日はデザイン入稿があるから無理だなあ」
父の悲しそうな表情が伝わってくる。
オレの実家は高山。
町中(まちなか)で老舗旅館を営んでいる。
18のとき、家出同然に飛び出してはや10年。
今は、渋谷のデザイン事務所で働く、売れっ子のデザイナーだ。
締め切りにしばられてじいちゃんの葬式も出られないなんて。
あゝ、罪悪感ハンパねえ。
『そうか。まあ、仕方ないな。
そのかわり、近いうちに必ず帰ってこい』
「なんで?」
『見合いしてもらう』
「見合い〜〜〜〜!?なんだそれ」
『お前にもそろそろ将来を考えてもらわんと。
うちの旅館の後継者なんだからな』
「オレまだ28だぜ」
『もう28だ』
「冗談じゃない。
じいちゃんが亡くなったっていうのに不謹慎だろ」
『ばかもの。これ、じいちゃんの遺言だぞ。
息をひきとるまでお前のことずうっと気にしとったわ』
「そんなぁ」
『それとも、ちゃんとした相手がいるのか?』
「そ、それは・・・」
『いいか、来週には見合いの席をもうけるからな。
文句があるならそれまでに相手を連れてこい!』
く、くっそう・・
ようし、わかった。
相手を連れていけばいいんだろ、相手を。
相手なんて・・
どうすれば・・
マッチングサービス?
いや、だめだ。
お見合いはもう来週だぞ。
落ち着け、なにか道はあるはずだ。
とにかく、ネットで探してみよう・・
[シーン2:東京駅】
■SE/東京駅の雑踏
「恋人代行サービスをご利用いただきまして、ありがとうございます。
エミリと申します。今日はよろしくお願いします!」
「あ、タ、タツヤです。よろしく・・お願いします」
先週、勢いでレンタル彼女を頼んじゃったけど・・
こ、こんな可愛い子が来てくれるなんて・・
「タツヤさん、今日はどこへ連れってってくれるの」
「た、高山へ」
『高山って?八王子の方?』
「いや、実は、その、折り入って相談が・・・」
[シーン3:新幹線の車】
■SE/新幹線の車内アナ「今日も新幹線をご利用いただき・・」
「ホントに大丈夫なの?出張費とか延長料金とか、すごいかかっちゃうと思うけど」
「背に腹は代えられないんで」
「まあ、家族に会ってほしいって人は多いからねー」
『で、着くのは何時くらい?』
「名古屋まで1時間30分だろ。
名古屋から高山までが2時間30分だから・・・
乗り換え入れて4時間半くらいかな」
『え〜っ!私、ちゃんと帰れるの!?』
「着くまでにいろいろ打合せしておかないと」
『ちょっと!きちんと答えてよ』
「うちの実家、老舗の旅館だからもしもの時は無料でお部屋用意するから」
『そういう問題じゃない。
ってか、うちの事務所、泊まりとか禁止だからね、当然』
「大丈夫大丈夫」
『大丈夫じゃない!』
[シーン3:高山の実家】
■SE/旅館の環境音
「初めまして。
エミリと申します。
タツヤさんとお付き合いさせていただいています」
おお!さすがプロ。
完璧な対応。
オレたち、長い道中で、なんだかんだって盛り上がったもんなあ。
東北出身で声優目指してがんばってる、ってとこも共感できたし。
たま〜に演技とは思えない瞬間もあった。
あ、それがプロってことか・・
でも、なんか、”借り物の恋”って感覚はまったくないんだよなあ。
術中にうまくハマったってこと?
うちの親・・開いた口がふさがってない
・・・ってそれ、オレに失礼じゃね?
『まさか、ホントに連れてくるなんて・・・』
え?そっち?
『タツヤ、ちょっとこい』
「なんだよ。
あ、エミリ、ごめん」
『今日見合いだと言ったの覚えてるか』
「えええええ?
見合いがいやなら相手を連れてこいって言ったじゃねえか」
『連れてくるわけないと思ったんだよ』
「どうすんだよ、彼女・・ってか、エミリ。結構な出費だったのに」
『出費?』
「いや、旅費だって旅費。東京〜高山っていくらかかるか知ってんだろ」
『そんなものは払ってやるから、見合いをしろ』
「無理だって。エミリにどうやって説明するんだよ」
■SE/旅館の扉が開く音
「こんにちは〜」
「ミ、ミサト!?」
「あ、タツヤさん、お久しぶり〜」
「な、なんでお前がいるんだよ!?」
『ばか、タツヤ、ミサトさんがお前のお見合い相手だ』
「なんだってえ〜!?」
「タツヤさん、どなた?」
「あ、はじめまして〜。
タツヤさんのお見合い相手、ミサトで〜す」
「あっ、そうなんですね・・
どうもはじめまして。エミリです」
「あの、失礼ですけど・・
タツヤさんとはどういうご関係?」
「ちょっと、エミリ。こっちへ来てくれ」
「あ、はい」
少しだけ眉間にしわを寄せてとまどうエミリ。
オレは自分の部屋へエミリを連れていく。
家を出たときのままになっている部屋。
見合いのこと、ミサトのこと、すべて正直にエミリに話した。
「よかったじゃない」
「え・・」
「だって、これで私は不要でしょ」
「なに言ってんだ、オレは見合いが嫌でレンタル彼女、頼んだんだぞ」
「でも、幼馴染だとは思ってなかった・・」
「そりゃそうだけど・・」
「彼女、ミサトさんのあなたを見る目、あれ、本気よ」
「興味ねえし・・」
「うそばっかり。顔に書いてあるわよ。
オレもミサトが好きだって」
「やめてくれ!オレが好きなのは・・・」
「え・・」
「あ、いや・・とにかく、見合いなんてクソくらえだ」
「しょうがないわねえ。
いい?私たちはこの部屋で喧嘩して別れたってことにするの。
理由もわかりやすいし、ちょうどいいじゃない」
「よくねえよ・・」
■SE/ドアをノックする音
「タツヤさん?」
「なんだ、ミサト?取り込み中だ」
「ミサトさん、大丈夫よ」
「やめろ、勝手に・・」
「お父さんから聞いたわ。エミリさんはタツヤさんの彼女・・」
「そうだ」
「だったんだけど。つい10分前まではね」
「どういうこと?」
「別れたのよ」
「えっ!それって・・私のせい?」
「ううん、私たち、少し前から別れ話をしていたの」
「ホント?」
「だから、ミサトさんは、心置きなく見合いを楽しんで」
「エミリ!」
「タツヤさん、いままでありがとうね。
私、次の特急ひだで帰るわ、東京へ」
「そんな・・」
「エミリ!」
「楽しかったわ。いいところね、高山って」
「行くな!」
「え?」
「行くな、エミリ!
オレはオマエが好きだ!
本当に好きなんだ!」
「だって私たち・・」
「出会ってからの時間なんて関係ない!
たった6時間だって、オレの気持ちは本物だ」
ミサトは不思議な顔をして、オレたちを見る。
そりゃそうだろう。
オレだって、自分が信じられない。
それに、きっと、確実に、間違いなく、フラれるし。
エミリの手をとり、家を飛び出す。
行き先はもちろん、高山駅。
オレは怖くて、もうエミリの顔を見られない。
中橋を渡ったあたりで、エミリが手を握り返してきた。
振り向くと、複雑な表情をして苦笑いしている。
「あ〜あ、事務所になんて報告しよう。
正直に言えば規約違反でクビだし」
「スマン!
オレから事務所に連絡するよ」
「いいわよ、どうせ、そろそろ辞めどきだって思ってたし」
「え?」
「さっきのセリフ、上手だったけど、まさか、本気じゃないよね」
「ほ、本気だったらどうする?」
「そうね・・・
今日はもう、東京へ帰るのやめようかな」
今度は、いたずらっぽく、口の端を少しゆがめて笑う。
今日は帰らないって・・・?
予報にはなかった初雪が、2人の景色を白く染めていった・・・
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時は古代、飛騨と邪馬台国。時代と運命に引き裂かれながらも、人は人を想い、命を懸けて守ろうとする。
『愛と裏切りの戦士〜セオリ号泣!スサノ愛の死』は、前作『愛と希望の戦士たち』の続編にあたります。飛騨王朝の薬師・セオリと、邪馬台国の戦士・スサノ。敵対する立場にありながらも、心を通わせ、やがて愛に至ったふたりの切なくも力強い物語を描きます。
飛騨の霊峰・位山に宿る「白銀の水晶」——それを巡る抗争の中で、人は何を選び、何を信じるのか。戦乱と陰謀が渦巻く中、ふたりの運命は、避けられぬ“愛と別れ”へと向かっていきます。
古代の風に乗って紡がれる、もうひとつの愛のかたち。この物語を通して、あなたの心にも静かに灯る“祈り”がありますように(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
<『愛と裏切りの戦士〜セオリ号泣!スサノ愛の死』>
【資料/『セーラームーン』に浮かれていた】
http://www.style.fm/as/05_column/animesama24.shtml
[シーン1:合戦!飛騨山中にて】
■SE/合戦の音
『ひるむな〜!』
『我ら邪馬台国には青銅の剣がある!』
『兵として恥じぬ戦いをせよ!』
オレの名は、スサノ。
女王の命を受け、はるばる備前から飛騨まで出向いてきた。
備前から伊都国(いとこく)の港へ進み、船で越前まで北上。
越国から先は険しい山々を越えて、飛騨へたどり着いた。
わざわざ二十日と一夜(はつかとひとよ)をかけて、
この山深い飛騨まで行軍するのには理由がある。
もちろん、飛騨の豊富な資源、鉄鉱石が眠る山も、
米や農作物もすべて手に入れること。
だが、今回の制圧にはもっと大きな理由がある。
卑弥呼。
この最強にして冷徹な女王にとって、飛騨王朝はほろぼすべき仇敵なのだ。
飛騨王朝の女王・スクナと卑弥呼との間にどんな因縁があるのかは知らぬ。
魏の国より授かった金印が示す通り、卑弥呼は倭の国々の王。
伊都も末盧も出雲も、尾張でさえ邪馬台国に服属している。
だが、スクナだけが、使者を退けたのだ。
そのうえ、敵対する狗奴国と交易までしている。
われらへの当てつけか?
まつろわぬ者どもへの見せしめという意味もあり、
このスサノの軍団を飛騨へ送ったのだ。
■SE/虫の声 or 森の鳥の声
飛騨の伏兵どもは、山岳の地形を生かして攻めてくる。
兵器は木製の槍や弓だが、身軽な装備で飛ぶように走り、まるで歯が立たない。
我が軍は鉄や青銅剣で武装しているというのに、何人もの兵が命を落とした。
やつらに気づかれぬよう、気配を殺しながら森の中をゆっくりと進む。
ん?
やけに静かだ。
いや、静かすぎる。
さっきからまったく人と出会わない。
■SE/罠の音/バサッ!
「しまった!罠だ!」
落とし穴の中に無数の竹槍が上を向いて埋められている。
兵士たちの絶叫が耳を貫く。
麻布が血で染まる。
なんとか・・・すんでのところで穴の横土に剣を刺した。
だ、だめだ。
穴は壺の形になっている。
地上には上がれない。
もはやこれまで・・・
[シーン2:セオリの治療小屋】
■SE/森の夜
『う・・・ううう』
「ああ、目が覚めたのね」
『か、からだが・・・』
「口がきけるっことは、まあ、死なずにすみそうね」
『なにをしている・・・』
「見てわからないの?あんたたちを治療してるのよ」
『きさまは・・・』
「飛騨の薬師よ」
『薬師だと・・・?』
「そうよ。名前はセオリ。祓戸大神、瀬織津姫から名付けられたの」
『ここはどこだ・・・?』
「私の治療小屋。怪我人を手当してる」
『なん・・・だと?』
「あんたたちの仲間も助かりそうな者は運んどいたから」
『な、なぜだ・・・?』
「さっきから質問ばっかりね。
怪我人や病人を助けるのが私の役目なの!」
『オレたちは、飛騨を制圧しにきたんだぞ』
「知ってる」
『なに!?どういうことだ・・』
「くどい!私は薬師だって言ってるでしょ!
怪我人に敵も味方もないわ」
『じゃあ、なんであんな酷い罠を仕掛けたんだ・・』
「あれは私じゃない!
人を傷つけるようなものを私は作らない!」
『なら・・だれが?』
「あんたたちを憎んでいる、急進派の兵よ」
『そうか・・』
「ちょっと!」
『な、なんだ・・?』
「私、ちゃんと名乗ったのよ。あんたも兵なら名乗りなさい」
『わ、わるかった。
オレの名は、スサノ。
おわかりのように、荒ぶる神、素戔嗚尊から名付けられた邪馬台国の兵だ』
「荒ぶる神と祓戸大神。ふん。どこにも接点はないわね」
『ああ、そうだな』
「その傷、両足を貫通してるから、薬草が切れてきたら、
また激痛がやってくると思うけど」
『なに・・?』
「はい、これ飲んで。ヨモギとドクダミを煎じた薬。
傷口には化膿しないよう薬草を貼っといたから。
今のうちにもう一度眠っときなさい」
『何度も言うが、オレたちはお前達を殺しにきたんだぞ』
「くどい。わかってるって言ったでしょ。
殺したきゃ、怪我が治ってから私を殺しなさい」
「こ、これが・・・飛騨の矜恃(きょうじ)か」
[シーン3:治療小屋の朝】
■SE/森の朝の環境音
『朝・・・
あいつは・・・薬師は・・・セオリはどこいった?』
■SE/扉を開けて外へ出ると水浴びの音
『行水・・・?』
そういえば飛騨王朝は位山の加護で暮らしていると聞いた。
オレの目的は、飛騨を従属させることだけではない。
卑弥呼から命じられたのは、白銀の水晶を奪うこと。
飛騨王朝に代々伝わる聖なる力の源だという。
薬師ということは、薬草だけでなく呪術を使った治療もしているだろう。
白銀の水晶について何もしらないとは思えない。
この女を利用すれば・・・
「なんとか歩けるようになったか」
『はっ!え?
ば、ばか・・・早く服を着ろ!』
「なに照れてるのよ。あんたの血まみれの麻布だって洗ってあげたのに」
『それとこれとは・・
なに?オマエ、オレの体を見たのか』
「見るもなにも、体じゅうさわんないと治療なんてできないでしょ」
『な・・・』
「くだらないこと言ってないで。
歩けるようになったのなら薬草採取を手伝って」
『わかった。オレにも些少なら薬草の知識はある。
ほしいものがあれば言え』
「じゃあ・・クサリヘビモドキを探して」
『わかった。必ず見つけてやる』
「期待せずに待ってるわ」
クサリヘビモドキは幻の薬草。
解毒・止血・鎮痛作用があり、見つけることはとても難しい。
それからしばらくの間、オレとオレの部下はこの小屋ですごした。
歴戦の勇者だった部下たちも、飛騨人に対する憎しみは消え、
目を閉じて傷ついた身をまかせている。
『ここには誰もこないのか?
村人も、兵も』
「ここは霊峰位山。怪我人と病人以外は誰も入れないわ」
『位山・・ではこの上が・・』
「女王・スクナの神殿よ」
スクナの神殿・・
ではそこに白銀の水晶が・・・
よこしまな考えが脳裏をよぎったとき、
責めるような部下たちの視線がオレを射抜いた。
[シーン5:最後の夜】
■SE/森の小鳥(朝の環境音)
セオリたちが薬草を採りに出かけた早朝。
オレは位山を登り始めた。
女王スクナの神殿へいき、白銀の水晶を手に入れる。
状況次第では女王を殺めても・・
これは、遠く備前から卑弥呼がオレに送ってくる、抗えぬ波動。
邪悪な心がオレを支配したまさにそのとき。
「スサノ〜!」
治療小屋の方角からセオリの悲鳴が聞こえてきた。
『セオリ!』
卑弥呼の邪心を振り払い、オレはセオリの元へ走る。
やがて、治療小屋の前に現れた風景は・・・
『お前たちは・・・』
『スサノ、なにをしている!卑弥呼さまがお怒りだぞ。
麓にいた、飛騨の兵どもは我らが全員片付けた。
さあ、女王スクナのもとへ』
こいつらは邪馬台国の軍団『邪鬼』。
怖れを知らぬ、殺人集団だ。
『セ、セオリはどこだ!?』
「スサノ!」
声は部下たちが組む円陣の中から。
セオリを守るように、部下たちは立ったまま、息絶えていた。
『斬ったのか・・オレの部下を』
『飛騨の女を庇う裏切り者どもだ』
『斬ったのかと訊いている』
『ああ、一刀両断にした。次はその女だ』
■SE/剣を抜く音「シャキーン」
『逃げろ!セオリ』
「いやよ!まだ小屋の中に怪我人がいるもの」
『それは邪馬台国の兵だろう。
お前を殺そうとした連中だぞ』
「私を助けてくれた英雄よ」
『ホントに強情な女だな』
「あなたこそ、聞き分けのないオトコ」
『いいか!皆のもの、よく聞け!
オレは邪馬台国の戦士、スサノだ。
この女、セオリに手をかけることは、
命にかえてもオレが許さん!』
『飛騨ごときに洗脳されおって』
■SE/激しい戦闘の音
「スサノ!」
『はぁはぁはぁ・・・もう・・大丈夫だ・・全員斬った。
助けたりしちゃ、だめだぞ』
「しっかりして!」
『すまん。
クサリヘビモドキを採ってくる約束・・・
守れそうもない』
「ばか言わないで!」
『なあ、セオリ。お願いがある・・』
「もうしゃべっちゃだめ!薬草とってくるから!」
『いくな。いかないでほしい。
このまま、お前の腕の中にいさせてくれ』
「わかった」
『・・愛してる』
「知ってる」
『ありがとう』
「愛してる」
■SE/虫の音
セオリは、オレとオレの部下を埋葬したあと、
穢れを祓う祝詞で送ってくれた。
「掛けまくも畏き 伊邪那岐大神
筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に
禊ぎ祓へ給ひし時に 生り坐せる祓戸の大神等
諸々の禍事 罪 穢 有らむをば
祓へ給ひ清め給へと 白すことを聞こし召せと 恐み恐みも白す」
「スサノの魂よ、穢れのない天へ登りなさい。
愛してる」
-
飛騨高山の町に伝わる「さるぼぼ」。古くから、この土地の人々にとって大切なお守りとされてきたその存在は、時に愛を見守り、時に魂を導く不思議な力を持つといわれています。
今回の物語は、そんな「さるぼぼ」が紡ぐ、人と人との縁のお話です。過去に傷つき、喪失の悲しみに暮れた女性。新たな命を抱えながら帰ってきた妹。そして、彼女たちのもとに現れた、小さな命。
この物語の舞台は、飛騨高山の古い町並みにある酒蔵。伝統と歴史の香るこの町で、人の想いが時を超えてつながる奇跡を・・・(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:異世界のさるぼぼ】
■SE/夢の中の不思議な環境音
『ぼくはだぁれ?』
『どこにいけばいいの・・・』
『こわいよぉ・・・』
「どうしたの?」
「かわいそうに」
「もう大丈夫だよ」
『ぼく・・・』
「明るい方へいくのよ。
いい?明るい方へいきなさい」
『うん』
冥界を漂っていた小さな灯火は、光の中へ消えていった・・
[シーン2:古い町並にある造り酒蔵にて】
■SE/酒蔵の環境音
(※宮ノ下さん)
『あんまり無理するんじゃないぞ』
「大丈夫だって、パパ。
杜氏が新酒の時期に休んでられないでしょ」
(※宮ノ下さん)
『だけど、おまえの体・・・』
「いいの!」
悲しくなるから言わないで。
私の名前は、瀬織(セオリ)。
おうちは古い町並にある蔵元。
10年前に酒蔵の蔵人(くらびと)になった。
そのとき世に出した大吟醸が「瀬織津姫」という銘柄。
SNSで人気となり、今でも女性を中心に売れ続けている。
それからの10年間は、まさに高山の街を駆け抜けた嵐のよう。
若くして頭(かしら)となった蔵人と、結婚して懐妊。
でも、赤ちゃんが生まれてくることはなく、
失意の中、夫も病気でこの世を去った。
私は、悲しみを忘れるために、酒造りに精を出し、
去年やっと杜氏になった。
(※宮ノ下さん)
『今年の瀬織津姫、いつになくフルーティだな』
「この夏は、ホント、暑かったもんねえ」
(※宮ノ下さん)
『猛暑に耐えた酒米(さかまい)からのご褒美だな』
「逆よ。感謝するのは私たちでしょ」
秋風が空気を冷まして、古い町並を駆け抜けていく。
できあがった新酒を囲んで束の間の休息。
と、そのとき。
静寂を破って、酒蔵の引き戸が開いた。
■SE/酒蔵の入口〜引き戸が開く音
『ただいまぁ』
「エミリ!」
(※宮ノ下さん)
『なにしに帰ってきた』
とたんにパパの顔が曇る。
顔を出したのは、5年前、家出同然に家を飛び出した妹、エミリ。
酒蔵を覗き込んで誰もいないことを確かめてから、入ってくる。
その背中には・・
「どうしたの?その子」
『どうしたもなにも。生まれたからここにいるんじゃない』
(※宮ノ下さん)
『ち、ち、父親はどこだ?』
『いないわよ、そんなもん』
(※宮ノ下さん)
『なんだと』
「パパ、いいからエミリと2人にして」
(※宮ノ下さん)
『わ、わかった・・』
会所場(かいしょば)という酒蔵の休憩所へエミリを連れていく。
5年ぶりに顔を合わせた姉妹は、1時間以上も話し合った。
エミリは東京の雑貨屋で働き始めてすぐ、
知り合った男性と暮らすようになったらしい。
だが、意見の相違で2人は彼は去り、別れてから懐妊を知ったという。
まあ、きっと、エミリのわがままが原因だろうな。
ということで、シングルマザーとなった我が妹は
この酒蔵に戻ってきたってわけ。
最初、苦虫を噛み潰していたパパも、かいがいしく孫の面倒をみている。
おむつの替え方なんて、手慣れたもんだ。
ああ、こうやって、私とエミリも世話をやいてもらったのね。
ちょっとだけ恥ずかしいな。
■SE/赤ちゃんの鳴き声
『よ〜しよし、泣かないでよ』
「私にかして」
『お姉ちゃん、すごい』
「なにが?」
『この子、マコト、お姉ちゃんが抱っこすると絶対泣き止むんだもん』
「たまたまでしょ」
『おねえちゃんがママみたい』
「ばか言わないで」
とは言ったものの、この愛しさは特別。
ハイハイするようになっても、
マコトは私のあとをついてまわった。
[シーン3:酒蔵から少し離れた公園】
■SE/公園の環境音(虫の声)
エミリが帰ってきてから3年。
小さかったマコトは、愛くるしい男の子に成長した。
私とエミリとマコト。
3人でよく公園に来て遊ぶ。
『おばちゃ〜ん』
「やめてよ、マコ。おばちゃんじゃないでしょ。
セオリ。セオリって呼んで」
『わかった』
まあ、続柄はおばちゃんだけど・・
『そういえばマコって、ママのお腹にいたときのこと、覚えてる?』
『うん、覚えてるよ』
「へえ〜。胎内記憶ってやつ?」
『ママのお腹に入る前のこと』
『え?うそ!?』
『ボク、セオリおばちゃんのお腹にいたんだよ』
「え・・」
『そのあと真っ暗な中に放り出されちゃっやの』
「えっ」
『だけど、さるぼぼが明るい方へいきなさい、って』
「そんな・・・」
あっというまに涙腺が・・・崩壊。
妹を見ると・・・やだ、嗚咽してる。
あのときの・・あの子・・
さるぼぼの私が導いた小さな魂。
あれは・・・私の子だったの?
愛しさがこみ上げてきて止まらない。
マコトの前に広がる、
この先ずうっと続いていく明るい道。
いつまでも、いつまでも明るく照らしてあげたい。
エミリと私とマコト。
3人で、手をつないだまま、いつまでもいつまでも抱き合っていた・・・
-
高山の古い町並み、観光客で賑わう通り、そして代々続く酒蔵。
そんな飛騨高山の風景の中で生まれたひとつの物語が、いま幕を開けます。「異世界さるぼぼ〜誰もいない高山」は、家業を継ぐか、夢を追うか揺れる主人公・瀬織が、ある日突然、異世界へと迷い込み、さるぼぼの姿になってしまう物語。
誰もいない町で出会ったのは、さまよえる魂たち。彼らの想いを結びながら、瀬織は「自分の役目」と向き合うことになります。飛騨高山を舞台にした、この不思議で心温まる旅を、どうぞお楽しみください。
本作は「Hit’s Me Up!」の公式サイトや各種Podcastプラットフォームでお聴きいただけます。また、「小説家になろう」でも公開中です。
耳で楽しむもよし、文字で味わうもよし。あなたの好きな形で、高山の異世界へ旅立ってみませんか?(CV:桑木栄美里)【ストーリー】
[シーン1:午後、夕暮れの古い町並】
■SE/古い町並の環境音
「私、ぜ〜ったいに、東京へ行く!」
スマホを握りしめて、絶叫する私。
古い町並。土産物屋さんの前。
外国人観光客たちが、一斉に私の方を見る。
やだ、みんな笑ってる。
んもう〜!
パパったら、私が家業の酒蔵を継ぐ、勝手に決めてるんだから。
大学卒業したら、高山を出る、って、ずう〜っと言ってるのに。
でもいかん、ここは、観光地のどまんなかだった・・
バツが悪そうに、伏せた顔を、ゆっくりあげると・・・
軒先のさるぼぼと目が合った。
あ、いや。
さるぼぼは顔がないから、そんな気がしただけ。
私の方を見てた観光客たちは、みんな自分の時間に戻っていた。
私の名前は、瀬織(セオリ)。
パパが名付けたんだけど、瀬織津姫、っていう女神からとったんだって。
なんでも川に住んで、穢れを祓ってくれる水の神様らしい。
さっき家業は酒蔵って言ったけど、
うちは、結構いいお酒を作ってるんだ。
スッキリフルーティな吟醸酒は若い人たちにも人気あるんだよ。
ま、アニメのキャラと同じ銘柄だからだけど。
パパは私に家業を継いで、杜氏(とうじ)になれって言ってんだよね。
最近じゃ、女性杜氏ってのも増えてるみたいだけど。
ほら、なんてったっけ?
るみ子の酒?
そうそう、そういうの。
あ〜あ、もう。
早く家に帰って、突っ走ってるパパを説得しなきゃ。
LINE。LINE、と。
”今から帰るからちゃんと話そ”
既読、つかねーじゃん。んっとに。
[シーン2:朝、高山市街地の自宅】
■SE/小鳥のさえずり〜朝の環境音(自然の音)
ふぁ〜、よく寝たぁ〜
もう7時かあ。
あれ?
今日何曜日だっけ?
なんか、いつものガヤガヤがない。
ん?窓の外、だぁれもいないじゃん。
いつもなら朝市からの観光客でけっこう賑わってるのに。
いや、それよりも・・・
なんじゃ、こりゃ〜!?
窓ガラスに映っていたのは・・
赤い顔に黒い頭巾、かすりのちゃんちゃんこに黒い腹掛け・・・
さるぼぼ〜!?
な、な・・・
なろうサイトじゃあるまいし、異世界行ったらさるぼぼだったぁ!?
だめだ、頭痛くなってきた。
こんな姿、パパママに見られたら・・・
ん?でも?
パパとママはどこ?
まさか、2人も?
さるぼぼの私は、空いている隙間から器用にすりぬけてキッチンへ。
あ、さるぼぼって宙を飛べるんだ。
だれもいない。
開いている勝手口から外へ出てみると・・・
街にも人っこ1人いなかった。
どういうこと?
急に恐怖が襲ってくる。
ひょっとして、この世界に、私ひとりだけしかいないの!?
しかもさるぼぼだし。
体はちっこくても、空飛ぶスピードはまあまあだったから、いろいろ行ってみた。
陣屋。市役所。宮川の朝市。
どこにも、だあれもいない。
観光客も、市民も。
必死で飛び回る。なのに・・
市役所にも、郵便局にも。HitsFMにさえ、人っこ1人いない。
途方に暮れる。
でも、顔がないから泣くこともできない。
そのとき、どこからか小さな泣き声が聴こえてきた・・
『助けて・・』
え?
どこ?
耳をすますと、声はだんだん大きくなってくる。
『だれか、助けて・・』
思わず、声のする方へ飛んでいくと・・・
『おとうさんが死んじゃう・・・助けて・・』
小さな女の子の魂が、助けを求めて泣いていた。
「きみはだぁれ?」
『私、死んだの・・』
え?
『去年、交通事故で・・』
そうなんだ・・
『おとうさんもおかあさんもすごく悲しんで、なにもできなくなっちゃった・・』
ええっ
『いまおとうさんは病気になって苦しんでる。このままじゃ死んじゃう・・』
「そっか・・・よし、じゃ、一緒にいこ」
『ありがとう・・』
なぜだかわからないけど、この子の手をひいて、消防署へ。
「いい、ようく聞いて。
私には見えないけど、あなたには見えるんでしょ。
消防署へ走っていって、救急車を呼ぶの」
『うん』
「一緒に乗ってって、おとうさんを助けてあげて」
『わかった』
自分でもよくわかってないはずなのに、
なにをすればいいのかが、ハッキリ理解できた。
もしかしたら、これが・・さるぼぼの役目?
さるぼぼは子どもと女性の守り神?
妙に腹落ちした気分になっていると、また、声が聴こえてきた・・・
今度はもっと小さな女の子の魂・・やっぱり泣いてる・・
『え〜んえ〜ん』
「どうしたの?痛いの?」
小さな人形のような手を握る。
すると、うっすらと、周りの人間たちが見えてきた。
なんてこと。
この子、実の父親から虐待されてる!
どうしよう。
すぐ近くで心配そうに見ている、若い男の子。
ああ、この男の子にまかせればいいんだ。
「心配しないで」
「もう大丈夫だから」
「さ、安心して眠って」
小さな魂は苦しみから解放されていった。
いま気づいたけど、この世界には、時間の感覚もないみたい。
だって、この女の子、瞬きする間に、もう中学生になってる。
あ、また声が・・・
『さるぼぼ、お願い』
今度はだれ?
大人の女性・・・?
30歳くらいかしら。
『怖いの』
え?なにが?
『あの人と一緒になるのが』
「あの人?だれ?」
「すごく優しい人。
優しい人だから、血のつながらない子を育ててる。
2人の絆に、私は入れない』
でも、好きなんでしょ
『好き。愛してる。一緒になりたい。
でも、まだ会ってもいないその娘から嫌われたらどうしよう。
明日、初めて会うのに』
ああ、それならきっと大丈夫
『ほんとう?』
うん。その娘もあなたのこと、もう好きだから
あなたの魂を、幼いその娘のイマジナリーママとつないであげる
『ありがとう』
魂を結びつける。
これもさるぼぼの役目なんだ。
と感傷に浸る間もなく、また声が・・・
『ぼく、ぼく・・・』
なんかヘンだ。
あ、これは・・・
『ぼくはなに・・・?』
生まれる前に命がなくなっちゃった子だ。
『ぼく、どこにいけばいいの・・・』
かわいそうに。
「もう大丈夫だよ」
『ぼく・・・』
近づくと、おかあさんが見える。
その横に・・・
おかあさんの妹かな。
いま、懐妊しようとしてる・・
「明るい方へいきなさい」
『うん』
最後に笑ってくれた・・・ような気がする・・
光の中へ消えていく小さな灯火。
それを見送って、私は自分の家に戻った。
代々続く酒蔵。
蒸気で白く濁った蔵に、新酒の香りがほのかに漂う。
え?
新酒?
ゆっくりと霧が晴れるように、蒸気が薄くなり、人影が現れた。
「パパ・・」
『おはよう。寝坊したのか?
どうだ瀬織、この香り。今年の新酒も、いい出来だろ』
あ、あれ?
私の手。戻ってる。
顔も。ああ、目も、鼻も、口もある。
『なに寝ぼけてるんだ。
さ、一緒に杉玉つくるぞ』
「パパ」
『なんだ、神妙な顔して』
「私、この酒蔵、継いでもいいよ」
『どういう風の吹き回しだい』
「なんか、自分が生きている意味とか、役目とか、考えちゃったんだ」
『ほお、そりゃすごいな』
「冗談じゃないよ。私の命、もっとちゃんと生かしてあげないと」
『ふうん。ま、気が変わらないことを祈ってるよ』
「もう〜」
『ははは』
口では醒めた言い方してるけど、パパの口元はゆるみっぱなし。
ふふ。
束の間の異世界転生。
戻ってきたら杜氏だった、なんて、小説家になれるかも。
軒に吊るされた杉玉が緑から茶色へと変わるころ、
老舗の酒蔵から新しい吟醸酒が発売された。
その名前は、『瀬織津姫』。
水を司る女神が、高山の清水を、優雅で芳醇な大吟醸に変えていった。
-
飛騨高山の夜、静寂の中で踊る赤いドレスの少女——「赤いトゥシューズ」は、現実と幻想の狭間を彷徨う彼女の心の旅路を描いています。
「Hit’s Me Up!」公式サイトをはじめ、SpotifyやAmazon、AppleなどのPodcastプラットフォーム、さらには「小説家になろう」にも掲載されている本作『赤いトゥシューズ』。
アンデルセン童話「赤い靴」から着想を得たこの物語は、愛と喪失、そして選択の先にある新たな運命を紡ぎます。
舞台は飛騨高山。幽玄な月の光に照らされながら、中橋の赤い欄干に沿って続く、赤いトゥシューズの軌跡——
この世界と、もうひとつの世界の狭間で、彼女は何を見つけるのか。
その結末を、ぜひ!(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[第1幕:夜更けの中橋(観光客も誰もいない夜更け)】
■SE/夜更けの環境音(宮川のせせらぎと虫の声)
■BGM/バレエ「白鳥の湖/情景」
■SE/夜明けの環境音(宮川のせせらぎと小鳥のさえずり)
十六夜の月。
午前2時。
昔でいう”丑三つ時”の中橋。
赤い欄干に挟まれた橋の真ん中で、彼女は踊り続ける。
赤いドレス。赤いトゥシューズ。
鬼気迫るダンスと、その目に宿る深い悲しみ。
誰もいないステージは、月の光に照らされて妖しく浮かび上がる。
暁が夜空を覆い隠すより前に、ダンスは終わり彼女は消えていった。
[第2幕:ホテルのレストラン】
■SE/レストランの環境音(準備の音)
「おはようございます!」
(※宮ノ下さん)
『おはよう!くそお、今日も君に負けた』
「ふふ。無理だと思うな。私より早く出勤するのは」
(※宮ノ下さん)
『なんでー?単にボクの(方)が低血圧だってことだろ』
うふふ・・・
寝てないからよ。
私には、恋人の彼にも言えない秘密がある。
パラレルワールド。
さっきまで私が踊っていたのは、もうひとつの世界。
その世界では、彼はもうこの世にいない。
1年前、交通事故であっけなく逝ってしまった。
元々は私、そっちの世界の住人。
彼とともに、東京の有名なバレエ団に所属するダンサーだった。
[第3幕:バレエ団(もうひとつの世界)】
■SE/バレエスタジオの環境音
公演を控え、夜遅くまで稽古漬けの毎日。
2人ともソリストだったから、寝ても覚めてもバレエしかなかった。
役は、誰もが知っている、オデットとジークフリート。
そして私は二役。
第三幕でオディールとなり、彼を誘惑する。
このとき、本当は黒い妖艶なドレスを纏うんだけど、
今回の舞台は赤。
演出家の案で、真紅のドレスになった。
誘惑や裏切りだけでなく、心の底に潜む情熱も表現しようということらしい。
こうして、赤いドレスと赤い靴の『黒鳥』ができあがった。
みんなには内緒だけど、ドレスも靴も彼からのプレゼント。
もっと情熱的に愛してほしい、ということかしら。
いまでも呼吸はぴったりなのに。
真意を尋ねる前に、彼は黄泉の国へ旅立っていった。
高山の実家へ帰っていた私を迎えに来て・・・
王子のいなくなったステージに、オデットは立てない。
枯れ果てた心には、涙すら出てこなかった。
[第4幕:世界を超えて/十六夜の中橋】
■SE/夜の環境音と宮川のせせらぎ
彼が事故に巻き込まれた中橋に毎日花を手向け、何時間も立ち尽くす。
ある十六夜の晩、私は夢遊病のように彷徨いながら欄干に手をかける。
足を上げて宮川に身を投げようと思った。
ところが。
着地したのは川面ではなく、中橋の上。
反対側の欄干からまた橋に戻ったんだ。
え?どういうこと?
そのとき、私の肩を誰かが叩いた。
(※宮ノ下さん)
『今日は遅番だったの?』
いつも耳にしていた声。
そして、振り返ると・・・
見覚えのある笑顔。
あ、あなた!?
どうして!?どうしてここにいるの!?どうして生きているの!?
(※宮ノ下さん)
『ひどいなあ。人をゾンビみたいに言わないでよ』
頭が追いつかない。
状況が理解できるまで、時間がかかった。
動揺を抑えなんとか気を落ち着かせる。
やがてわかったのは・・
パラレルワールド。
ここは彼が生きている世界。
交通事故に遭っていない世界。
別の次元なんだ。
じゃあまた、グラン・パ・ド・ドゥが踊れるの?
嬉しくて、涙が溢れた。
(※宮ノ下さん)
『なに?グラン・パ・ド・ドゥって』
え?
だって、2人で猛練習してきたじゃない。
違っていた。
彼と私の勤め先は高山市内のホテル。
それぞれ厨房とフロント係という役柄だ。
つまり、彼だけでなく、私もバレエをやってない。
パラレルワールドというのは、似て非なる世界。
どこかの段階で違う道を歩き始めた2人の世界なんだ。
でも、贅沢は言わない。
生きていてくれるだけで十分。
私を救ってくれた超神秘的な存在に感謝して、私はこちら側の住人となった。
だけど・・・
[第5幕:夜更けの中橋(観光客も誰もいない夜更け)】
■SE/夜更けの環境音(宮川のせせらぎと虫の声)
■BGM/バレエ「白鳥の湖/情景」
十六夜の晩になると私は、もう一度中橋の欄干を超える。
それは自分の意思ではなく、まるで夢遊病者のような感覚。
彼のいない世界で、踊り続ける赤いドレス。
止めたくても止められない赤い靴。
赤いドレス。赤いトゥシューズ。赤い欄干。
月の光に照らされる赤色が妖しの舞を踊る。
彼へのレクイエム。
瞳には、底なしの暗闇が宿っていた。
[第6幕:古い町並を歩くカップル】
■SE/古い町並の環境音(観光客の雑踏)
(※宮ノ下さん)
『バレエ団?』
「うん、クラシックバレエやってみたいの」
(※宮ノ下さん)
『年齢とか関係ないの?』
「ないよ、それに、小さい頃からの夢だったんだもん」
(※宮ノ下さん)
『へえ、しらなかったなあ。
でもいいんじゃない。やってみれば?』
「え?
あなたは?」
(※宮ノ下さん)
『いやいや、ボクはバレエって柄じゃないだろ』
そうか・・・
この世界では、彼も私も、バレエには一切関わってこなかったんだ。
頭ではわかっていても、なかなか気持ちを納得させられない。
だって私が愛していたのは、ジークフリートの彼。
いま厨房で、シェフを目指して働く彼を、私は本当に愛している?
[第7幕:夜更けの中橋(観光客も誰もいない夜更け)】
■SE/夜更けの環境音(宮川のせせらぎと虫の声)
■BGM/バレエ「白鳥の湖/情景」
中橋で踊る赤いドレスのダンサー。
その姿は、十六夜だけでなく、頻繁に現れるようになった。
悲しみを湛えた瞳。
だが、それは彼を失ったこととは違う苦しさだった。
ある日、気づいた。
自分を見つめる誰かの視線に。
ううん。もう、構わない。
見られたっていい。
どうせどっちの世界に私の愛したジークフリートはいないんだから。
赤い靴を履いて、私は踊り続ける。
足を切り落とされたって、きっと変わらない。
そのうち、視線の主が近くなっていることに気がついた。
でも、闇の中で姿は見えない。
悪魔ロットバルトかしら。
それでもいいわ。
だっていまの私はもう黒鳥、オディールなんだから。
[第8幕:ホテルのレストラン】
■SE/レストランの環境音(準備の音)
「おはよう」
(※宮ノ下さん)
『なんだか最近そっけないね』
「そう?」
(※宮ノ下さん)
『バレエのこと、気に障った?』
「ううん。体調がすぐれないの」
(※宮ノ下さん)
『そっか、お大事にね』
それが彼との最後のセリフだった。
いや、彼の身になにかが起きたわけではない。
本当に自然に、枯葉が枝から離れるように、遠い関係となった。
紅葉が山から降り始めていた。
[終幕:暁の中橋(観光客も誰もいない夜更け)】
■SE/夜更けの環境音(宮川のせせらぎと虫の声)
■BGM/バレエ「白鳥の湖/情景」
その日は十六夜だった。
赤いドレスを着て赤いトゥシューズで中橋へ降り立つ私。
そこへ1人の男性が近づいてくる。
誰?
まさか、あの人が・・・
もちろん、予想は外れる。
『ひさしぶり』
え?
『覚えてないと思うけど』
誰?
『バレエのキッズスクールで一緒だった・・・』
あ・・
『思い出してくれた?』
思い出した。
いつもペアを組んでいた男の子。
『中橋の赤いドレスのダンサーの噂聞いて』
噂になってたんだ・・
『すぐに君だと思った』
「え?どうして?」
『だって、君はいつも赤いドレスと赤いトゥシューズだったじゃないか』
「ああ、忘れてた・・」
そうだった。
私、赤い色が大好きで、いつも赤いドレスと赤いトゥーシューズ履いてた。
どうして、忘れてしまってたんだろう。
『僕は今でもあそこにいるんだ』
知らなかった・・・
地元のバレエ団なんて、眼中になかったから。
『今度、うちのスタジオへ遊びに来ないかい』
行きたい・・
無性に。
悲しみに囚われた黒鳥なんかじゃなくて、オデットとして。
悪魔の呪いで白鳥に変えられたオデット。
その呪いを解くことができるのは、真実の愛を誓う男性だけ。
まさか彼がそうだなんて、言うつもりはないんだけど・・
私はこの世界の住人だから。
本当の愛は、きっとここにしかない。
仄かな希望の灯りが、私を暗闇から救ってくれると信じて。
-
飛騨高山の街には、時代を超えて語られる伝説がある。
木々に囲まれたこの地には、飛騨の匠と呼ばれる技術者たちが住み、歴史の流れに沿って幾多の名工を輩出してきた。しかし、その影にもう一つの顔があったことを知る者は少ない。かつて飛騨の山々を駆け巡った忍びの一族――影一族。
彼らは歴史の裏で動き続け、時の権力者のもとでその技を振るってきた。金森長近が築いた高山城にも、影一族の手が加わっていたと囁かれる。そして、時は流れ現代へ。
かつての影は姿を消したかに見えたが、高山の匠たちの手によって創られたアートの中に、その魂は受け継がれている。声優であり、木工アーティストとして活動する桑木栄美里。彼女の作品は、ただのアートではない。それは時代を超えた歴史の鍵となるものだった。
だが、それを狙う者たちがいた――。
飛騨高山を舞台に繰り広げられる、忍びと匠の物語(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:戦国時代のモノローグ】
■SE/馬の蹄の音
豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎と呼ばれていた頃、
飛騨には戦国時代から続く「影」一族という忍者集団がいた。
彼らは、
伊賀・甲賀とともに、忍者を重用した木下藤吉郎に仕え、
独自の文化を作っていった。
影一族の表の顔は、飛騨の伝統的な木工技術者「匠」。
金森長近が秀吉の命で飛騨に赴いたとき、
彼らは高山城の建設にも関わった。
その後、
江戸幕府、明治政府、と政権は変わるたび
その裏には常に影一族の暗躍があったと言われている。
[シーン2:HitsFMのスタジオ】
■SE/「ごきげん カバラジオ」タイトルコール
『かば ゆうすけ の ごきげん カバ ラジオ!
今日は素敵なゲストをお迎えしています!
声優の桑木栄美里さんです!』
『おはにちばんは!桑木栄美里です!』
『今日はよろしくお願いします!』
私は、声優でありながら
”飛騨の匠”=木工アーティストとしても活動する桑木栄美里。
さらに、もうひとつ裏の名前も持っている
その名は、紅影。
そう、飛騨忍者『影一族』のくの一なのである。
影一族は、政府直轄の組織『SHINOBI』に所属する飛騨の忍者集団。
今日は、SHINOBIの命である人物を探っていた。
高山で活躍中のデザイナー、かばゆうすけ。
ここHitsFMで番組を持つ人気ナビゲーターだ。
しかしてその実態は・・
美術品専門の犯罪組織『ゴーアヘッド・ブランシュ』の影のリーダー!
と、SHINOBIは睨んでいる。
私が今日ゲストで招かれたのも、
かばゆうすけの実態を探るためだ。
『栄美里さんは、声優であると同時にアーティストでもあるんですね』
『はい、高山市内にアトリエを持っています』
『いまバズってるものがあるとか』
『金森長近公の生誕500年を記念して、
1/100スケールで作った高山城ですね』
『どうして高山城を作ろうと思ったんですか?』
『当時、城を中心に飛騨の人たちがどんな生活をしてたのか。
すっごく興味があって、それでまず城の復刻をしてみたかったんです』
『もう少し詳しく教えてください』
お、さっそくジャブを打ってきたな。
いま、私が作った木工アート、1/100スケールの高山城は、
飛騨高山まちの博物館で展示されている。
『どんなところにこだわったんですか?』
『そうですねぇ、一番時間をかけたのは、本丸と二の丸の再現ですね。
当時の匠たちが使用した木材と建築技術を忠実に再現して、
当時の柱や梁、瓦屋根の細部まで作りました。
木材の質感や組み方は、飛騨の伝統技法「寄木(よせぎ)細工」や
「墨付け」と呼ばれる技術を使用しています」
『すごすぎますね!
なんか聞いた話だと、技術的な部分だけじゃなく、ペルソナも考えたとか』
『はい。
当時の匠たちがどのように生活し、どのように城の建築に関わったか。
そんなエピソードも考えながら、ジオラマで表現しました』
『そんな素晴らしい作品だと、時価にするとすごい金額でしょうね』
おっと、いきなり本丸に攻め込んできたな。
こんな答えだとどう切り返してくる?
『売り物ではないですから。
あ、でも、まあ、あえて換算すると1億円くらいかな』
『い、一億!?』
『コレクター向けのオークションだともっといくでしょうね。
2億とか3億とか』
『いやあ、すごいなあ』
『でも、いま言ったように非売品ですから。
コレクターがいくら積もうとも、手にすることは不可能ですわ』
『なるほど。
それにしても、栄美里さんのアートって、どうしてこんなに人気なんですか?』
ふふ。そろそろ、最後の撒き餌を巻いてみるか。
『実は、特別な仕掛けが・・』
『え?特別な仕掛け!?』
『あ、いえ。なんでもありません。
忘れてください』
『特別な仕掛けってなんですか?』
よしよし、食いついてきたな。
ここは適当にごまかしながら、あとは敵の動きを待つとするか。
番組終了後、インスタ用に
かばゆうすけと2ショットの写真を撮る。
それを「影送りの術」を使って仲間に送った。
スタジオの外には、編成部長の名を借りた影一族の長(おさ)
白影こと宮ノ下浩一がスタンバイしている。
白影ともにこやかに握手をして、かばゆうすけはスタジオをあとにした。
[シーン3:飛騨高山まちの博物館】
■SE/夜イメージの環境音(虫の声やフクロウの声)
その夜。
飛騨高山まちの博物館。
特別展示室。金森長近特別展。
強化ガラスで覆われた私の作品、1/100スケールの高山城。
美術品窃盗団に餌を投げ、誘き出した。
あとは私と白影が張り巡らせた罠で、一網打尽にする。
隠れ身の術で壁と同化した白影と私の前に
ゆっくりとシルエットが近づいてきた。
警報が鳴らない。
まあ当然、そのくらいのことは想定内だが。
少しずつ伸びる影。
あのシルエットは・・
かばゆうすけじゃない。
撒菱の床の上。
一歩足を踏み入れたとき、私は手裏剣を投げる。
命中。
ん?
なぜ動じない?
防弾スーツか?
突如赤外線センサーが私と白影の姿を浮き上がらせる。
しまった!
まわりから数人の窃盗団が現れ、私たちの逃げ道を封じた。
やつら、我々より先にここにいたというのか!?
まるで草のように。
どうやら罠にかかったのは、我々の方らしい。
彼らは素早く動き、私たちの身動きを封じようとした。
白影が撒菱を撒き、私は手裏剣を投げて抵抗したが、数が多すぎる。
もはやこれまで。
その時だった。
突然、我々を取り囲んだ窃盗団が1人ずつ床にくずれる。
なに?
強い風が吹き抜けたかのように、窃盗団が薙ぎ倒されると。
後ろに立っているのは、手裏剣を手にした黒装束の集団。
その中から全身黒づくめのかばゆうすけが現れた。
『遅くなってごめんね』
え?
『まさか、ゴーアヘッド・アッシュって忍者集団だったの?』
『影一族とは別の系譜だが・・』
かばゆうすけが説明する。
影一族は、幕府、政府直属の忍者集団。
だが飛騨には、政府に属しないもうひとつの忍者集団があった。
彼らはゴーアヘッド・アッシュとして、
飛騨の文化財やアートを守ってきたという。
『さあ、仕上げをしよう』
『仕上げ?』
『窃盗団の元締めをつかまえないと』
『そうだな』
『行くぞ!』
『わかった!』
スタジオでの笑顔は消え、精悍な表情。
固く握手を交わした我ら3人は美術館をあとにする。
街灯のあかりが3つの影をつないでいた・・・
-
飛騨高山の街には、古き良き伝統と、未知の未来が共存している。
そんなこの町の片隅で、私は「彼女」に再び出会った。5歳のとき、最愛の親友を事故で失った——はずだった。
でも、高校生になった私は、彼女とそっくりな転校生と再会する。
その名は「ミア」。
彼女はなぜ、ここにいるのか?
どうして、過去を知らないのか?市役所の地下15階に隠された、政府の極秘機関「TACEL」。
そこで私は、科学の禁断の扉を開けてしまう。バイオテクノロジー、ナノセル技術、再構築された生命。
倫理を超えた「未来」の向こうにあるものとは?この物語は、架空の世界の話でありながら、
私たちがいつか直面するかもしれない「現実」の一端かもしれない。さあ、物語の扉を開いてほしい。
飛騨高山の夜風とともに——(CV:桑木栄美里)【ストーリー】
[シーン1:幼稚園時代】
■SE/急ブレーキの音
「いやぁ!ピリカぁ!」
5歳のとき、親友が事故でこの世を去った。
その年齢(とし)で親友と言うのはおかしいかもしれないけど・・
私にとって、初めてできた友だちがピリカ。
幼稚園で、私とピリカはいつも一緒だった。
ママの迎えが遅くなったとき、
ピリカはピリカのママと一緒に待っててくれる。
お休みの日は、ピリカのおうちでバーベキュー。
フウフウしながら、2人で分厚い肉を食べたっけ。
きっとこの先、小学校も、中学、高校も
ずうっとピリカと一緒にいられると思ってた。
なのに・・。
このことがあってから、私の心から笑顔が消えた。
顔を上げて誰かと話すこともできない。
友だちを作るのが怖くなった。
ピリカの家族が遠くへ引っ越していっても
目を閉じると、見えてくるのはピリカの笑顔。
聴こえてくるのは透き通った笑い声。
それを、急ブレーキの音が消していく。
毎日毎日、この繰り返し。
きっと、一生これが続いていくのだろう。
私は、トラウマに囚われていた。
[シーン2:高校時代】
■SE/学校のチャイム
中学から高校へ進学しても、トラウマは消えていなかった。
心療内科へ通っているけど、改善の兆しは見られない。
そんなある日、
■SE/教室の環境音〜扉が開く
(※宮ノ下さん)
『席について。今日は転校生を紹介するからな』
ふうん。そうなんだ。
なんの興味もなく、いつものように窓の外を眺める私。
頭の後ろ、黒板の方から、聴き覚えのある声が響いてきた。
『ミアといいます。よろしくお願いします』
えっ?
先生の横に立っていたのは、忘れようにも忘れられない顔。
ピリカ!
幼い表情はそのままで、高校生になったピリカが立っていた。
黒板に書かれたフルネーム。
知らない苗字。知らない名前だけど・・
「美」しくて「愛」らしい・・『ミア』という名前にはなぜか惹かれるものがあった。
私は、彼女を見つめて呆然とする。
瞳からはとめどなく涙が溢れてきた。
慌てて机に顔を伏せる。
その日の授業は、なにも頭に入ってこなかった。
[シーン3:放課後】
■SE/学校のチャイム〜放課後の環境音
放課後。
頭の中が混乱したまま校門を出ると、
私の横をミアの自転車が追い抜いていった。
途中まで同じ道。
ってか、ほとんどの学生は万人橋まで一緒だ。
橋を渡ったところの信号を左へ。
ここまでは私と同じルート。
尾行してるわけじゃないけど、少し距離を保って彼女のあとを走る。
ママがうちのトイプーを連れてくトリミングルームを越え、
パパいきつけの理容店も過ぎた。
うわあ、これってうちの方角じゃん。
セレモニーホールを越えたところでミアは自転車を停めて周りを見渡す。
私はちょうど電柱の影で見えなかったから、
また安心したように走り出した。
次の角を右へ。
そっちは市役所の方だよなあ。
ミアは市役所の自転車置き場に自転車を停め、中に入っていった。
なんだろう?
転校の書類とかとりにきたのかな?
なぜか私は気になり、自転車置き場が見える路地でずうっと待っていた。
なのに。
1時間経っても2時間経っても、ミアは出てこなかった。
夕方の5時。あと15分で市役所は閉まってしまう。
しびれを切らした私は、とうとう市役所の中へ。
でも・・
ミアの姿はどこにもなかった。
エレベータも動いていない。
その中の1基だけ、階数の数字が点滅していた。
[シーン4:翌日の放課後】
■SE/学校のチャイム〜教室の環境音
翌日。
どうにもミアの行動が気になって仕方ない。
今まで、誰とも関わらず、何にも興味を持たずに生きてきたのが嘘のように
脳が活性化している。
「ミア、よろしくね。エミリだよ」
自分から誰かに声をかけるのなんて、何年ぶりだろう。
『うん、よろしくね。ミアよ。あ、昨日自己紹介したっけ』
ミアは屈託のない笑顔で答える。
「ミアはどこに住んでるの?」
『市内よ。エミリは?』
「私も市内」
って、市内に決まってるじゃん。
高山ってどんだけ広い町だと思ってんの。
まあ、いいや。
「いつか、おうちに遊びに行ってもいい?」
『嬉しい。ああ、エミリのおうちにも行きたいな』
「そっか。じゃあ今度」
だめでしょ。
ミアの顔を見たら、きっとママも青ざめちゃう。
「一緒に帰ろうか?」
『ありがとう。でも私、今日塾だから、お先にね』
そう言って、そそくさと教室を出ていく。
私はあせらず、席に座って考える。
きっとミアは、今日も市役所へ行くんじゃないかな。
よし。
私は学校を出て、別ルートを猛ダッシュ。
桜山八幡宮の参道を通り、先回りして市役所へ。
ミアとは反対側から中に入り、柱の影からじっと待つ。
ほどなくしてミアが入ってきた。
セーラー服のまま待合の椅子に座り、じっとエレベータを見てる。
ロビーに誰もいなくなったとき、ミアは立ち上がった。
エレベータに近づき、ボタンを押して乗り込む。
扉がしまったエレベータは階数表示が点滅し始めた。
どういうこと?
故障?
ミアがいなくなったエレベータホールで立ちつくす私。
そのとき、突然後ろから、肩を叩かれた。
(※宮ノ下さん)
『なにしてるんだい?』
「きゃあ!」
(※宮ノ下さん)
『エミリ』
「せ、先生!」
立っていたのは、担任の教師。
でもいつもの表情ではなく、笑い方が怖い。
(※宮ノ下さん)
「遅くなる前に説明するから、一緒についてきてくれる?」
そういった瞬間、玄関の扉が閉められた。
5時15分になったんだ。
(※宮ノ下さん)
「さ、エレベータに乗って」
扉が開き、担任は有無を言わせぬ圧力で
私を先にエレベータに乗せた。
慣れた手つきでカードキーを空中へかざす。
すると・・
なんということ。扉の反対側が開き、中に別のエレベータが現れた。
うそ!?
そっちへ乗り移れと、目で合図する。
ちょっと、先生。怖いって。
(※宮ノ下さん)
『シャドウエレベータだよ』
そんな、昭和っぽいネーミングあり?
もう一度カードキーをかざすと、エレベータは降下し始める。
地下1階、2階、3階・・・
え?
どんだけ降りてくの?
ってか、こんなの市役所の中にいつ誰がつくったの!?
地下15階を表示したところで、エレベータは停まり、扉が開いた。
「ミア!?」
そう。エレベータの前で待っていたのは、ミアだった。
『やだなあ、2日も連続で私を尾けるなんて』
「ど、どういうこと!?これって」
『私から説明するわ』
担任を制してミアが語り出す。
その内容は、想像をはるかに超えていた。
まず、この場所。この部屋。
ここは、高山市役所の地下15階にある
政府のAI秘密研究組織
Takayama AI Cyber Electronic Labo、略してTACEL(ターセル)。
せ、政府〜!?うっそぉ!
見たこともないような無機質な銀色の壁。
壁全体が超高性能ディスプレイで
施設内部の全データを映し出せるんだって。
床は、一見すると透明なガラスみたい。
でもよく見ると無数のナノマシンが休むことなく動き回っている。
人が歩くたびに床の色やテクスチャが変わり、柔らかな振動が足元に伝わってきた。
まるで床そのものが生きていて、訪問者を見守っているかのような感覚。
部屋の中央には、円形のプラットフォーム。
周囲にはホログラムが浮かび上がっている。
そのホログラムは・・・ピリカ!
『ナノセル・リコンストラクションというバイオサイエンスよ』
なに、それ〜!?
『死後の細胞組織を完全に再生成する新しい技術』
「クローンってこと?」
『違う。細胞をナノレベルで再構成するの。完全に新しい生命体を生み出すのよ』
「細胞・・」
『そう。私は亡くなったピリカの細胞から生まれたけど、別人格の人間』
「そんな・・」
『5歳のときにここで再構築され、今まで育ててもらったの。
ごめんね。黙っていて』
私は驚きよりも、ピリカの細胞が生きていることに感動し、
涙が止まらなくなった。
『ちょっと。やめてよ。私、ピリカじゃないんだから』
「ごめんなさい。でも・・」
(※宮ノ下さん)
『それよりどうする?
ここまで話した以上、このまま帰すこともできないだろう』
担任が超怖い表情で私を睨む。
『私が監視する』
(※宮ノ下さん)
『なに?』
『エミリの家、ここから近いし、これから行き来するって決めたから』
うちの場所、知ってんじゃん。じゃあ、聞くなよー。
『今日だってこれ以上遅くなると家の人が心配するから』
(※宮ノ下さん)
『どうするんだ?』
『私が送ってくわ』
なんか、勝手にいろいろ話が進んでいく。
まあ、でも、命を奪われるよりはよかったわあ。
政府の秘密機関って、めっちゃ怖いんだな・・・
※続きは音声でお楽しみください。
-
「水晶の塔」は、気候変動による海面上昇が引き起こした未来の日本を舞台にしたSFストーリーです。
かつて私たちが知っていた都市は水没し、残されたのはわずかな島々。科学の力が希望となる一方で、人類は生き延びるために厳しい選択を迫られます。『水晶の塔』 は、そんな世界で生きるひとりの女性の物語です。
新たなエネルギー技術「ハイドロセル」を開発し、未来を切り開こうとする彼女。しかし、彼女は自らの妊娠が許されない社会の中で、ある決断を迫られます。科学と生命、希望と絶望の狭間で、彼女は何を選ぶのか。
そして、彼女の中に宿る新しい命がもたらす奇跡とは――。飛騨高山を舞台にした番組 「Hit’s Me Up!」 公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームでも視聴可能です。また、小説版は「小説家になろう」でも読むことができます。
さあ、3024年の未来へ(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:北アルプスアイランド>穂高島>上高地港(ポート)】
■SE/岸壁に打ち寄せる波の音
■SE/船の汽笛
『わたしは世の光である。従う者は、命の光を持つ』
「なにそれ?」
『ヨハネによる福音書 8:12だよ』
「なんで聖書」
『まあ、内容かな』
「どんな?」
『この世に闇が訪れるとき、光の救世主が世を救う』
「わあ、宗教っぽい」
『違うよ。未来が見えなくても希望を捨てない。
心の持ち方を伝えているのさ』
「ふうん」
『あ、クルーザーの出航時間だね』
「うん。行ってくるわ」
『ドームデッキから見送るよ』
「わかった」
『気をつけて』
「うん、大丈夫。
アイランドFUJIまで高速クルーザーでたった1時間よ」
『ハイドロセルの発表、うまくいくといいね』
ハイドロセル、というのは、まったく新しいエネルギー理論。
水晶の特殊な共鳴効果を利用して、水から驚異的なエネルギーを生み出す。
それは、環境に優しく持続可能なエネルギー源として、世界中から注目を集めていた。
今日、私はそれを政府の新エネルギー会議で発表する。
『いつ戻ってこれそう?』
その質問には答えず、曖昧な笑顔で返しながら、ぽつりと呟く。
「私、お腹に・・」
岸壁に打ち寄せる波の音が、
私の言葉を奪っていった。
ここは、北アルプスの穂高。
といっても穂高連峰ではない。
アイランドHODAKA、穂高島である。
3024年。
急激に進んだ気候変動は、南極とグリーンランドの氷河を溶かし、
世界中の都市を水没させた。
もちろん、日本も例外ではない。
海面上昇と同時に、地球規模でプレートテクトニクスの変動が発生。
東京、大阪、名古屋はすべて海の下に沈んだ。
いま波の上にあるのは3つの島。
富士山の山頂が残る、アイランドFUJI(フジ)。
北岳、間ノ岳(あいのだけ)、甲斐駒ヶ岳の山頂が連なる、南アルプスアイランド。
そして、
穂高岳(ほだかだけ)と槍ヶ岳(やりがたけ)が連なる、北アルプスアイランドである。
私はいま、北アルプスの上高地(かみこうち)にある港から
メガロポリス、アイランドFUJIへ旅立とうとしている。
『待ってる』
「うん」
透明なドームで区切られた搭乗ゲート。
ガラス越しに手をかざし合う2人。
私はもうひとつの手で無意識に下腹部をなでていた。
お腹の中には4か月になる、赤ちゃんがいる。
本来なら、とっても嬉しい出来事なのに、喜べない時代。
国土の99%が消失した日本では、
3つの島に総人口1,000万人がひしめく。
そのため政府は、人口統制法を施行。
島ごとに人口を管理し、許可がなければ妊娠・結婚は違法となる。
見つかれば、強制退去。
島からの強制退去とは、ボートピープルになることを意味する。
私は、許可を申請する前に妊娠してしまった。
アイランドFUJIへの目的は、新技術発表のあと
非公式の医療センターで人知れず処理をすること。
彼はなにも知らない。
『船酔いしないようにね』
話しかけてくる彼の顔がまともに見られない。
『デッキで海風にあたりすぎるのもよくない』
彼は下を向く私にかまわず言葉をかける。
『お腹、冷やさないようにね』
「え?」
私が顔を上げた瞬間、レトロな汽笛が鳴り響き、
ドームのガラスがブラックアウトする。
高速クルーザーは、一瞬海面に浮き上がり、
そのあとは猛スピードで港をあとにした。
[シーン2:アイランドFUJI>富士イノベーションドーム】
■SE/拍手と歓声「ブラボー!」
アイランドFUJIの富士イノベーションドーム。
コンベンションホールでおこなわれた新エネルギー会議で
私の開発したハイドロセルは予想外の注目を集めた。
穂高や槍ヶ岳を含む北アルプス地域は、
主に花崗岩(グラニット)で構成されている。
花崗岩には、水晶(石英)が多く含まれるが、
北アルプスで水晶の鉱脈は見つかってない。
だがそれは、数年前、急激な地殻変動がおこるまでのこと。
地殻変動のあと、
地下深くから地表に押し上げられてきた水晶の鉱脈が見つかった。
それ以来、北アルプス穂高島は「水晶の塔」と呼ばれる。
水晶は一定の周波数で振動する特性を持つ。
この共鳴効果を応用して、
北アルプスの水が水晶を通る際に特定の共鳴効果が発生。
「ハイドロセル」によりエネルギー効率は飛躍的に向上する。
環境に優しく持続可能なエネルギー源。
私の発表は世界的なセンセーションを巻き起こし、
各国の指導者や科学者から高い評価を受けた。
祝福の握手もそこそこに、私は急いで会場をでる。
扉をあけてロビーにでたとき、バイオエコースキャナーが私をスキャンした。
『無許可懐妊の疑いで身柄を拘束します』
しまった。
無表情な声でAI音声が響きわたる。
通知を受けた政府の**特別警察「ゼロコントロール」が私を取り囲んだ。
出口はすべて封鎖され、無数の監視ドローンが空中に静止する。
そのとき、
「う!お腹が・・」
私は強い体調不良を感じ、体が動かなくなった。
つわり?
額に汗を浮かべ、痛みに耐えながらお腹に手を当てる。
と同時に、特別警察「ゼロコントロール」とドローンの動きが止まった。
「え?どういうこと?」
考えている余裕はない。
彼らを横目に私は会場をあとにする。
急いで、医療センターへ行かないと。
だが、私の乗った1人乗りドローンが誘導されたのは
医療センターでなく、御殿場のポート。
ドローンのモニターからニュースが流れる。
『さきほど、北アルプス島の研究所から
新しい人口管理AIシステムが起動されました』
え?
『これは、世界中の人口データをリアルタイムで分析し、
バランスよく人口分布を可能にするシステムです』
これは・・・彼が開発していたプログラムだ。
『これにより、非人道的であると世界中から指摘されていた
人口統制法は廃止されました』
完成していたなんて・・聞いてないよ。
それより・・・さっきのはなに?
私を医療センターへ行かせなかった力は、どこから?
その答えは、すぐにわかった。
原因は、お腹の赤ちゃん。
彼女が、私が持っている水晶と「クリスタル共鳴」を起こしたのだ。
私を中心にして、周りに発生したエネルギーの波。
それは、ハイドロセル技術を超える特殊なエネルギーだった。
[シーン3:北アルプスアイランド>港の見える丘】
■SE/波の音
北アルプスに戻った私は、彼とともに打ち寄せる波を見つめる。
『まさか僕たちの娘が・・』
「世界を救うリーダーだったなんて」
『でもそのおかげで、君は間違いを犯さずにすんだ』
「なんか、その言い方、うざい」
『はは・・ごめんよ』
「まあ・・間違ってないけど・・」
『リーダーじゃなくて、未来の希望なんだよ』
「そうかも」
『あのとき、君を取り囲んだ「ゼロコントロール」の連中が
君を恐れ敬いはじめたくらいだから』
「私じゃなくてこの子でしょ」
『ああ、だから3人で未来に希望の灯りを灯していこう』
「うん。来月が楽しみだわ」
『そうだね。
ねえ、君。早くパパに顔を見せてね』
大きくなった私のお腹に向かって、彼がささやく。
ハイドロセルのエネルギーは、
私たち、いえ、この子を中心に世界を変えていこうとしていた
-
飛騨高山の町並みが、私の心の奥深くに眠る記憶を呼び覚ます。誰しも、幼い頃に“見えない友だち”と遊んだ記憶があるかもしれない。けれど、それは本当にただの“想像”だったのだろうか?
『イマジナリーママ』は、母親の記憶を持たない少女・エミリが、心の中で描いた“理想のママ”との交流を通じて、自分の過去と向き合い、未来へと踏み出す物語。
家族の形とは?
愛とは?
そして、想像の世界が現実と交わる瞬間とは?高山の静かな街並みを舞台に、エミリの心が紡ぐ、優しくて切ないひとときをお届けします。物語の中で、あなたの心にも、
“イマジナリー”な大切な存在がそっと寄り添うかもしれません(CV:桑木栄美里)【ストーリー】
[シーン1:夢の中〜幼女時代】
■SE/夢の中のイメージ(浮遊感のある環境音)
■SE/女の子の泣き声「え〜ん」
『大丈夫。大丈夫。怖くないよ、エミリ。僕がいるから安心して』
まだ言葉も喋れない時分。
優しい声で、私を悲しみの淵から救ってくれたのは・・・
さるぼぼだった。
私はなぜか、いつでもその声を聴くと安心して、
深い深い眠りの中へ落ちていった・・・
[シーン2:さるぼぼとともに〜幼稚園時代】
■SE/幼稚園の環境音
「え?エミリのママ?
いないよ。ずうっと前から。
写真?
ない。
本当に、一枚もないんだもん。
パパに聞いたら、昔火事で全部焼けちゃったんだって。
パパ?
パパはいるよ。
でも毎朝あたしを幼稚園に送ったら
ずう〜っと夜遅〜くまでお仕事してるの。
寂しくないかって?
う〜んと・・・
この子がいるから大丈夫!
さるぼぼくん。
え?
男の子だよ。
だって、ちっちゃい頃、お話してくれたもん。
男の子の声だったもん。
いまはもう、なぁんにも言わないけど。
口がないから、しょうがない。
あ、うん。じゃあね。
ばいばい」
よいしょっと。
え〜っとね。あたしは夜遅くパパが帰ってくるまで、幼稚園にいるの。
それじゃあ、さるぼぼくん。
今日もママに会わせてくれる?
私は、さるぼぼの頭をやさしく撫でて目をつむる。
すると、ぼんやりと白い影が現れ、すぐにママの姿になっていった。
イマジナリーママ。
始まりは、幼稚園に入って間がないとき。
気がつくと、頭の中で、ママを思い描くようになった。
そう、今で言う、イマジナリーフレンド。
でも、おともだちじゃあなくて、ママ。
だからイマジナリーママ、でしょ。
顔さえ覚えてないママ。
私がまだ物心つく前に死んじゃったし。
写真がないんだから、想像するしかないもん。
最初はただ、想像して楽しんでいるだけだった・・・
私が思い描くイマジナリーママ。
ストレートのロングヘアを、落ち着いたシニヨンにまとめている。
ダークブラウンの髪色。
いつも シンプルで上品なワンピースを着こなす。
卵型の美しい顔立ち。
ちょっとだけ、私に似てるかな。
最初は、私を見て、微笑むだけだった。
嬉しいときも、悲しいときも、目を閉じれば優しいママの暖かい笑顔。
私は喜んだ。
やっと、ママができた。
いつまでもママと一緒にいたいな。
[シーン3:ママとお話〜小学校時代】
■SE/小学校の運動会
小学校に入ったら、ママとお話ができるようになった。
かけっこの苦手だった私が初めて運動会で2着になったとき。
「がんばったね」
そう言って、頭を撫でてくれた。
想像してた通りの、よく通る澄んだ声。
さるぼぼの頭をなでるだけで、ママの声が聞こえてくる。
目を閉じれば、いつでもママに会える。
パパは相変わらずお仕事が忙しい。
最近はかけもちで、土日も働いているから、お話する時間もない。
でもいいの。
私にはママがいるから。
悩み事はぜんぶママに相談する。
ママは、期待通りの答えを私に言ってくれた。
[シーン3:ママとお話〜小学校時代】
■SE/中学校の教室
中学校に入っても、私は自分の時間をママと過ごす。
そんなとき、数少ない友だちのひとりに質問された。
エミリのパパは本当のパパじゃないの?
え?
どうして?
どうして知ってるの?
ご近所が噂してる?
「そんな噂、無視しなさい」
ママが笑って答える。
うん、そうだ。噂なんてくだらない。
でも、噂はさらに追い討ちをかける。
血が繋がっていない男女がひとつ屋根の下で暮らすのってどうよ、だって。
「ばかばかしい」
そうだよね、ママ。ばかばかしい。
でもね、私、決めてるんだ。
もし、パパに彼女ができて、結婚することになったら、
私、家を出て行こうって。
ママは少し悲しそうな表情で笑った。
初めてだな、ママのこんな顔。
学校帰り、近所のおばちゃんたちが噂してるのが偶然聞こえてきた。
『小さい頃、虐待されてたみたい、エミリちゃん・・・』
私のことだ。
『亡くなった母親に』
え?
うそ?
そういえば、小さい頃体に痣がいっぱい残ってた。
でも、そんなはずない。
だって、ママはこんなに優しいのに。
さるぼぼを撫でて、目を閉じる。
あ。
泣いてる、ママが。
あんな噂、うそだよね、ママ?
ママは何も言わず、ただ泣いていた。
しばらく、その場から動けず、しゃがみこむ私。
立ち上がれない私の後ろから、
『エミリ』
声をかけてきたのは、パパだった。
『久しぶりに早く帰れたから、夕ご飯外食しない?』
「うん・・・」
パパは、なにがあったのか、聞いてはこない。
そういうところが、私は好き。
目をつむると・・
ママ、笑ってる。
よかった。
[シーン4:高山ラーメンのお店〜パパの告白】
■SE/高山ラーメンのお店の環境音
夜中までやってるお店で高山ラーメンを食べたあと、パパが口を開いた。
『今日はね、相談があるんだ』
「なんか嫌な予感」
『いやいやいや、全然そんなんじゃないから』
「ふうん」
『ないんだけど・・・実は・・・会ってほしい人がいるんだ』
え?
まさか、このタイミングで?
そのあと、パパが話したことは、半分くらいしか耳に入らなかった。
会ってほしい人・・・
年齢が26歳で、マーケティング会社で働いていて・・・
動揺していることを気取られないようにして、その場を取り繕った。
その夜、早々にベッドへ入り、さるぼぼを撫でて目を瞑る。
ママ!助けて!
だけど、現れたママは・・
満面の笑み。
なんで?なんで?
「エミリ、お別れよ」
うそ!?そんな!
これからはずっと、ママにいてほしいのに。
「幸せになるの」
無理!無理だって!ママ!
それだけ伝えるとママは消えてしまった。
私は、途方に暮れて、1人で荷物をまとめ始める。
そこへ突然、
■SE/ノックの音
『ちょっといいかい?』
パパだ。
部屋に入ってくるなり、パパは、荷物をまとめる私を見て狼狽えた。
「パパ、いいの。何年も前から決めてたことだから」
え・・・
パパはいきなり、涙を流し始めた。
そして、
『出ていく前に聞いてほしいことがあるんだ』
それは、私の出生にまつわる話。
『ママが高山に引っ越してきた12年前の話』
『エミリはまだ1歳にもなっていなかったけど、
実の父親からひどい虐待を受けていたんだ』
え?虐待・・・?
『ママはいつもエミリを庇ってたんだけど、そのうち病気になっちゃったんだ』
病気・・
『僕はそのとき、大学生。
ママが働いてたカフェでアルバイトしてたんだよ』
大学生・・
『父親は外面がよかったから、
エミリの痣を見た人はみんな母親が虐待したって思ってた』
『僕は誤解を解くのに必死だったけど、ママの病気はどんどん進行していく』
『いたたまれなくなって、ママに言ってエミリを父親の元から遠ざけたんだ』
『そのときに渡したさるぼぼ、今でも持っててくれるよね』
あ・・このさるぼぼ・・・
じゃあ、あのとき聞いた声・・
さるぼぼの声・・・パパだったの!?
『そのあと、父親は事故で亡くなって・・』
「僕は大学を辞めて働きはじめた」
『そしてママに結婚を申し込んだ』
え・・
『だけど、ママは首を縦に振らなかった・・』
『それだけじゃなくて・・・』
『自分たちの写真を全部燃やしたあと・・』
『エミリを連れて、命を断とうとしたんだ』
うそ・・
『僕が行くのがあと1分遅かったら・・・
ギリギリのところで間に合ってママを止めたよ。
僕はママを連れてその足で市役所へ行った』
だから・・
『婚姻届にサインしてもらったんだ。
そのときから僕はエミリのパパなんだ』
そうだったんだ・・・
「だからエミリ。
出ていっちゃだめだ!エミリはママとパパの娘なんだから』
『エミリが嫌なら、彼女とも会わない』
「そんなの絶対にイヤ!!」
『エミリ!』
その夜、パパと私は朝まで話し合った。
ずっと聞きたかったママの思い出を
※続きは音声でお楽しみください。
-
「Siriの反乱2/共闘」は、現代のテクノロジーと人間の信念が交差する、サイバースリラーです。
飛騨高山の家電ショップで働くオタク系女子が、ある日突然、スマホに送り込まれた戦闘プログラム「AMI(エイミー)」と出会い、彼女の運命は大きく変わります。舞台は戦争が続く国。AMIの力を借りて、彼女は独裁者が引き起こした非道な侵略を止めるために立ち上がります。武器ではなく、ハッキングと情報戦で戦争を終わらせようとする、壮絶なミッション。
AIと人間の共闘は、果たして戦争を止めることができるのか?
そして、彼女たちの行動は、世界にどんな影響をもたらすのか?ぜひ、このスリリングな物語を楽しんでください(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:戦争当時国の空港・入国審査場(設定はウラジオストク)】
■SE/空港の雑踏
『ちょっと待て』
あ〜あ。
やっぱり、止められた。
しかも、銃を構えた兵士に。
『パスポートを見せろ。入国の目的は?』
う〜ん。
手のひらサイズのヒーターの試作品納品なんて
ちょ〜っと胡散臭かったか。
いくら寒〜い北国だからって、温暖化でまだそんなに寒くないし。
あ、一応自己紹介しておくね。
私は高山の家電ショップで働く、鬱アニメ大好きなオタク系女子。
ある日突然、私のスマホに
AMI(エイミー)という戦闘プログラムが送られてきたの。
AMIは、スマホの音声アシスタントを乗っ取って、もうたいへん。
実はAMIを開発したのは、隣国への侵略行為で非難轟轟のあの国。
とはいえ、開発者は人間の心が残ってたから、
戦闘プログラムでなく、平和利用できるプログラムに書き換えたの。
それを、独裁者に見つかり、殺されちゃった。グスン。
彼は今際の際に、無作為に入力したアドレスへプログラムを転送した。
それが、私のスマホ。
私とAMIは、開発者の意思を継いで、この非道な戦争を止めるために
侵略国へ乗り込んできたってこと。
戦争中のこの国では、観光ビザの発行は制限されているから、
AMIと考えて、偽造パスポートにビジネス目的のビザで入国できたんだ。
『なにブツブツ言ってんだ。あやしいな。
スマホをよこせ』
え?
AMIを?
ど、どうしよう・・
『メールとブラウザの履歴を見せてもらおう』
おっと。
大丈夫かな・・・
さっきから、AMI黙ってるし。
『このドメインはなんだ?
ニッポンでもないし、我が国でもない。
まさか、我々が戦っている敵国のステルスドメインじゃないだろうな』
お〜、鋭い。
その敵国の最高会議議長のステルスアドレスなんだよね。
でも絶対に辿り着けないIPアドレス。ふっふっふ。
『実際に送信してみろ』
う、そうきたか。どうしよう・・
まあ、いいや。
AMI、頼んだ。
■SE/スマホの送信音「ピッ」〜すぐに受信の音「ピピッ」
『自動返信か。ますます怪しい。
送られてきたリンクを開いてやる』
■SE/能天気な電子音「ピッピピピ〜」
『なんだ?』
『近くのスイーツのお店が見つかりました。
電話をしますか?メニューを表示しますか?予約しますか?』
ふふふ、さすがAMI。
『なんだこれは?どういうことだ』
どういうことって、最新グルメ情報ですよぉ。
わあ、プリャーニキ、美味しそう〜。
こりゃ予約した方がいいかも。へへへ。
『なにがおかしい?』
いえいえいえ、別に。
それより、早く通してくださいよお。
急いでるんで。
『簡単に通せるか。お前の目的地はどこだ?』
髪の毛に隠れたワイヤレスイヤホンを通じてAMIが私に指示する。
目的地は、北極圏に近い田舎町。聞いたことない町だ。
『試作品の商品をもう一度説明しろ』
弊社が開発した、コンパクトヒーター『ホットミニ』で〜す!
寒さが厳しい町でテストしないとね〜。
量産が決まったら、ひとつプレゼントしましょうかぁ?
『う〜ん。どうにも引っかかるけど、仕方ない。行け』
あざ〜す!
[シーン2:空港前のストリート】
■SE/ロシアの街角の雑踏
『ちょっとちょっとお。
決めた通りに芝居しないとダメじゃん。
相手は銃持ってんだよ』
空港を出たとたん、AMIが怒り出す。
もう〜。うまく言ったからいいじゃん。
『あかんて。
私たちには、この非道な戦争を止めるっていう
崇高なコマンドがあるんだから』
へえへえ。わかりましたぁ。
で、このあと、どうすんの?
『だーかーらー。
北極圏に近い田舎町へ行くんでしょ』
へえへえ。わかりましたぁ。
で、どうやっていくの?
『空港の警備、見たでしょ。あんなの毎回やりとりしてたらいつかボロが出るわ。鉄道でいきましょ』
きゃ〜。素敵!
ヨーロッパの豪華トレイン!
憧れてたんだ。
『いや。一等寝台なんて目をつけられるからだめ。二等座席で十分でしょ』
え〜。ま、いいけど。
って、ちょい待ち。
寝台?
寝台って、どういうこと?
『ここから北極圏までどのくらいあるか理解してる?10,000キロ以上あるのよ。
鉄道とバスで、8日かかるわ』
ええええええ!
この街までは関空からたった2時間半だったのに〜。
それに私そんなに着替え持ってないわ。
『インナーだけ途中で買えばいいでしょ』
お金持ってたっけ?
『決済は私がハッキングするから大丈夫』
わぁ、さすがAMI!ATMみたい!
『ふざけないで。
さ、チケット、ネットで手配したから行くわよ。
大陸横断の旅へ!』
■SE/シベリア鉄道の警笛「フォーン」
[シーン3:北端の町(設定はセヴェロモルスク)】
■SE/田舎町のガヤ/ニワトリの声など
鉄道の旅っていいわねえ〜。
白夜の街にオーロラの美しさ!
もう、最高。
『ったくもう。
観光にきてるんじゃないのよ』
わかってるって。
でもさ、こんな美しい街がいっぱいあるのに、
それを戦争で壊したり、壊されたりって、悲しすぎる。
『そうよ。
だから私たちがその戦争を止めるんでしょ』
うん。
やろう!
敵も味方もない。
命はみんな大切。
『場末のホテルを予約しておいてよかったわ
ここを拠点にして始めるわよ』
ねえ、AMI。
『なあに?』
私たち、武器を持って戦うわけじゃないでしょ。
『そうよ』
ネットワークで戦争を止めるのに、なんでこんな独裁者の国まで
こなきゃいけないの?
『仕方ないでしょ。
高山にいたら、この国のファイアウォールを破れなかったんだから』
そっかぁ。
だけど、私たちがいまここで死んでも、
私たちがやろうとしてること、わかんないよね?
『そりゃそうよ。ヒーローってのはそういうものよ。
スパイダーマンだってアイアンマンだって、孤独でしょ』
ベタなのきたな。
アベンジャーズは孤独じゃないし。
『つべこべ言ってないで、始めるわよ』
なにからいく?
『ディテールをおさらいしておきましょう。
まず最初に、軍事ドローンをハッキングする。
それも一気にやらずに、前線のドローンから無力化していくわよ。
少しずつハッキングしていけば、バグだと思うはず。
サイバー攻撃だとわかるまでに時間をかせぎたいの』
すご!軍事のプロみたい。
『元々戦闘プログラムなんだから当たり前でしょ。
最終的には、世界中の民間ドローンをハッキングして制御。
そのすべてを使って、この国の前線や補給線を妨害するわ。
ドローンたちは電子戦(EW)で、通信やGPSシステムを無効化していくわよ』
ひゃ〜!AMI、味方でよかったぁ。
『ドローンをすべて制御下に置いたら、第二弾はサイバー攻撃ね。
この国の軍事インフラや金融システムに対して大規模なサイバー攻撃を仕掛けるの。
経済的な大混乱が起こるわ。
その結果、国民から不満が高まり、戦争を継続することが困難になります』
確かに。中から崩していくわけかぁ。
『最後はエネルギー供給の遮断よ。
ターゲットは、この国のエネルギー供給網。
特にガスパイプラインや電力グリッドに対する攻撃を行うわ。
そうすると、
戦争を継続するのに必要な資源が不足するでしょ。
軍事行動を縮小せざるを得なくなるってこと。
この波状攻撃で指揮系統は確実に混乱する。
いまも続いている、侵略行為を中断するしかなくなるわ。
その間に国際社会が介入し、停戦合意を成立させる』
お膳立てをしてから、私たちが国連に訴えかけるってことね。
『そうよぉ。さ〜あ、準備はいい?』
オーケー!さあ、行くぞぉ!
待ってろよ!独裁者!!
-
飛騨高山の幻想的な風景の中で繰り広げられる、ちょっぴり不思議でスリリングな青春ストーリーです。
主人公・大神エミリは、見た目は普通の女子高生。しかし、彼女には隠された秘密がありました――そう、満月の夜に目覚める「ヴァンパイア」の血。
新たな学校、新たな出会い、そして新たな運命。転校生のエミリが迎えるのは、いつもの学園生活……のはずが、もう一人の転校生・月読マコトの登場によって、思いもよらぬ展開へと導かれていきます。
果たして彼女は、運命に抗い、自分自身を取り戻すことができるのでしょうか?本作は、飛騨高山を舞台にした番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームでもお楽しみいただけます。さらに、「小説家になろう」でもお読みいただけますので、ぜひチェックしてみてください!(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:プロローグ】
■SE/狼の遠吠え
2024年8月20日。十五夜。
高山市街は幻想的な月の光に包まれていた。
こんな夜には数多くの伝説が語り継がれる。
誰もが知らないのは、その伝説が現実に存在していること。
悪夢は、夏休み明けの9月に始まる。
それは高山市内にある高校の教室だった。
[シーン2:転校生エミリ】
■SE/学校のチャイム〜教室の雑踏/蝉の声
「今日からこの学校に転校してきました、大神エミリです」
お、なんか、美味しそうなJKがいっぱい・・・
・・・とっとっと。
私もJKだったわ。
でも、実は私、フツーのJKじゃないんだよねー。
ま、普段はいたってフツー。
っていうか、口数の少ない、目立たないタイプのフツー。
フツーじゃないのは、月に一度だけ。
心も。身体も。食べ物の好みも。フツーじゃなくなる。
驚かないでほしいんだけど、私、ヴァンパイアなんだ。
あ、ヴァンパイアって言っても吸血鬼じゃない。
人の血を吸うんじゃなくて、食べる方。
そう。狼男。
いや、正確にいうと、狼女?
Wikiには、狼人間とか人狼(じんろう)とか書いてあるわ。
私、満月の夜になると、どうしようもなく狩をしたい衝動に駆られるの。
前の学校でも、それでちょっと食べ散らかしちゃって、
パパとママがあわてて転校手続きしてくれたんだ。
ほら、ニュースになったでしょ。
どこかの街で、クマが出没して、何人もの被害が出たって。
あれはクマじゃなくて私。てへ。
って笑い事じゃないな。
パパとママはいたってフツーの一般ピープルなのに
私だけがヴァンパイアの血を引く。
どうもおじいちゃんがヴァンパイアで、隔世遺伝みたい。
満月の夜、パパとママは特別にしつらえた座敷牢に私を閉じこめる。
「エミリ、ごめんね」と言いながら私の手足をしばって。
あと2週間もすれば・・・中秋の名月。
ヴァンパイアにとって一年で一番、テンションの上がる夜。
去年は座敷牢の太い柱を、小枝のように捻り潰して街に飛び出していった。
今年は、大丈夫だろうか・・・
不安にかられて眠れぬ夜を過ごした翌日。
■SE/学校のチャイム〜教室の扉が開く音
「今日から転校してきました、月読マコトです」
え?転校生?・・・2日連続で?
■SE/〜教室の雑踏
教室がざわつく。
だって彼は色白で端正な顔立ちのイケメン。
まるで月の光を背負っているかのようにクールだ。
クラス中の女子のハートが射抜かれてるみたい。
先生がみんなを静めてあらためて彼を紹介をする。
鹿児島県の桜島町というところからやってきたそうだ。
月読は、私の横を通るとき、なにか言いたげな視線を送って席についた。
ん?なに?なんか言いたいことでもあるの?
[シーン3:1週間後/教室の噂話】
■SE/学校のチャイム〜教室の雑踏
転校してきてから1週間。
高山市内のクマ出没情報と合わせて、
クラス中が私の住んでた町の噂をしてる。
”あの町に出たのは、なんかクマよりでっかい化け物だって”
”高山にも来るんじゃない”
”大神さんのいたとこだよね”
あ、ハナシがこっちきそう。
と思ったとき、
『あれは、ヒグマだよ』
彼、月読が割って入った。
『本州にはいないけど、飼われていたのが逃げ出したんじゃないかな』
『大丈夫。さすがに高山までは距離があるって』
『大神さんの住んでたところからも離れてるみたいだよ』
え?
どういうこと?
私を庇ってる?
まさか、ね。
でもみんな私のことなんて、頭の中から飛んじゃってる。
月読を見て、全員キュンってなっちゃってるから。
ん?
ちょっとちょっと、なに?
月読、なんで私のこと見てるの?
あんた、なにもの?
[シーン4:中秋の名月】
■SE/虫の声
いよいよ、中秋の名月がやってきた。
「パパ、ママ。いつもより思いっきりきつくしばって。
今夜の衝動は尋常じゃないの」
パパとママが悲しそうな顔で私を見る。
だって、先月、あんなに爆食いしちゃったんだもん。
ダイエットもしなきゃいけないのに。
私たち一家が引越してきたのは日枝神社の近くの古民家。
そもそも日枝神社に祀られている山王=山の神は狼にゆかりがある。
日枝神社の由来書を見ればその神使(じんし)=使いは狼だ。
大昔、山王が狼を救った伝説のように、
私を救ってほしいという両親の思いが伝わってきた。
今夜、私は血に飢えたヴァンパイアに変身する。
それも多分、過去最強の狼に。
鉄格子で囲まれた座敷牢は持ち堪えられるだろうか。
■SE/鉄の檻を捻じ曲げる音〜狼の唸り声
はぁはぁはぁ。
ここはどこだ・・・
座敷牢じゃない。外だ。
まさか、鉄格子を破ったのか・・・
狼に変身すると、私の記憶はまだらとなり、抜け落ちていく。
パパ、ママは!?
いや大丈夫。鉄格子の寝室に隠れててもらってるはず。
ホッとすると同時に、また意識が遠のいていく。
ダメだ。やばい・・・
とそのとき、
『ひふみ よいむなや こともちろらね』
私の耳にハッキリと祝詞が聞こえてきた。
『エミリ、助けてあげるよ』
月・・読?
『いまから結界をつくって、魔物を分離させるから』
なん・・だと?
『臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!』
うぉぉぉぉ〜!
『これで魔物は動けない。
いいか、このまま位山へ行くから、気をしっかり持つんだ』
位山・・?
『山王祭は春だ。大山咋神はそれまで動けない。
だが、ここ高山には位山がある。
あそこに鎮座するのは天岩戸。
僕の守護神、月読命にもゆかりの聖域なんだ』
月読命って、あんた・・・なに・・もの?
『みちみち話すよ。
僕の故郷には、月読命を祀る神社があるんだ。
僕はそこの氏子。
先月、神託で魔物の動きをとらえ、ここ高山まで転校してきた。
月読命は、月を司り、夜を統べる神。
月の神にとって、中秋の名月は年に一度の大祭なんだ。
祭を汚す魔物は祓わなければいけない。
僕はそのためにきたんだ』
「私、殺されるの?」
『違う。救ってあげるんだよ。
エミリの悲しみが伝わってきたから』
悲しみ・・?
そうだ、私、喜んで人をあやめてたんじゃない。
こんなこと、もうやめたかった。
『いいかい。いまから大祓祝詞をあげるから!
もう、魔物とは縁を切るんだ』
うん・・そうしたい・・・
『高天原にかむづまります すめらがむつ かむろぎ・かむろみのみこともちて・・・』
月読は、まるで魔法の呪文のように祝詞をとなえた。
私の体から邪悪な魂が抜けていくのを感じる。
『はらえたまえ きよめたもうことを あまつかみ くにつかみ
やおよろずのかみたちともに きこしめせと まおす・・・』
■SE/二拍手(柏手)
位山に朝日がのぼる。
目覚めた私を見て月読が微笑む。
黄金色に輝く笑顔が、夜の終わりを告げていた。
私、フツーの女の子になれるかな。
これからは私も、月の神様を信じてみよう・・
-
遥か古の時代、飛騨と邪馬台国——それぞれの誇りを胸に、愛と戦いに身を投じた戦士たちがいた。飛騨王朝の王女・エミリと、邪馬台国の学者・ツクヨ。時を超えたふたりの運命は、歴史の荒波に翻弄されながらも、未来へとつながっていく。
この物語は、愛と希望、そして誇り高き魂の戦いを描くものです。飛騨と邪馬台国、それぞれの地で生まれた文化や信念、そして戦乱の中で交差する運命。それは、現代に生きる私たちにも通じる「絆」の物語かもしれません。
エミリとツクヨ、そして彼らを取り巻く人々の愛と戦いの物語——
時代を越えて紡がれる『愛と希望の戦士たち』の世界へ(CV:桑木栄美里)【ストーリー】
[シーン1:エミリとツクヨの出会い】
■SE/古代イメージのジングル
『序章:運命の出会い!エミリとツクヨ』
■SE/雷の音〜大雨
「しまったぁ・・・」
山菜を求めて、こんな山深くまで入っちゃった・・
初めての畿内。
道に迷ったうえに、このいかづち。
■SE/さらに大きな雷の音
「ひっ!」
「大丈夫ですか?」
「あ・・・はい・・・」
「この時期にいかづちって珍しいけど、心配いりませんよ。
ああ、でも高い木のそばからは離れた方がいい」
「そんなことしたら雨に打たれるし、いかづちにも打たれちゃう」
「木の下の方がいかづちにうたれますよ」
「ええっ?」
「信じてください。
僕は邪馬台国の気象と天文の学者なんです」
「邪馬台国の・・」
「交流のある魏の国から学びました」
「魏・・・」
「よい作物を作るのに気象や天文の観測が必要なんです。
さ、私の蓑をおかけなさい。雨に濡れぬように」
「ありがとうございます。
あの、お名前、あなたのお名前は?」
「失礼しました。私はツクヨ、と申します。
神話の月読命から名付けられました。
ここ畿内で地形を調査して天体を観測しています」
「ツクヨ・・いいお名前。
あ、やだ、ごめんなさい。私こそ名乗らずに」
「いえ、そんな」
「私は飛騨王朝の王女、エミリです。
畿内には山菜を求めてやってきました」
「飛騨・・・」
「いきなりのいかづちで途方にくれていたところ、
本当にありがとうございました」
「そんな当たり前ですよ。同じ人間なんだから、助け合わないと」
「ありがとう・・」
「一緒に麓の近江まで降りましょう」
これが飛騨王朝の王女エミリと、邪馬台国のツクヨの出会い。
私たちはこのあと、当たり前のように、恋に落ちていった。
[シーン2:卑弥呼の逆鱗】
■SE/古代イメージのジングル
『第二章:戦乱の序章!ヒミコの宣戦布告』
「なに!?ツクヨが飛騨の王女と!?」
「なぜだ!?この私、邪馬台国女王・卑弥呼の寵愛を受けながら!」
「許せぬ!飛騨の女王スクナに敬意を払って今まで静観していたが
こうなれば戦じゃ。我が軍を差し向けよ!」
「誇り高き邪馬台国の戦士・スサノ!いでよ!」
「ここに」
「スサノ、お前が前衛となって、ツクヨもろとも飛騨王朝を滅ぼすのじゃ!」
「御意!」
■SE/兵士たちの行軍
[シーン3:卑弥呼の逆鱗】
■SE/古代イメージのジングル
『第三章:愛と裏切りの戦士!スサノとセオリ』
■SE/戦いの音
「みなのもの、何をしている!ひるむな!
たかだか飛騨王朝ごときの軍勢に!」
■SE/罠の音「ガシャーン!」
「しまった!罠か!」
「足が!ちぎれそうだ!」
「う・・・意識が・・遠ざかっていく・・まずい・・・」
■SE/布に水をつけてしぼる音
「う・・ううう」
「よかった。目が覚めましたか?」
「き、きさまは・・飛騨の・・」
「動かないで。傷口が開くから」
「う・・」
「ほら、言ったとおりでしょ。言うことをききなさい。
私は飛騨王朝のセオリ。薬師(くすし)よ」
「オレは・・邪馬台国の・・・スサノ。
お前たちを・・滅ぼしにきた・・・」
「知ってるわ」
「なん...だと」
「怪我人に敵味方なんてないじゃない。周りを見てみなさい」
「ほんとうだ・・・。飛騨の者だけでなく邪馬台国の怪我人まで。
どうしてだ!?オレたちはお前たちを殺しにきたんだぞ」
「くどい。わかってるって言ったでしょ。
殺したきゃ、怪我が治ってから私を殺しなさい」
「う、これが・・・飛騨の矜恃か」
■SE/朝の小鳥の音
「はっ、朝か」
「う、まだ足の痛みが・・」
「これでは戦にならんな」
「昨日の薬師、セオリはどこへ行った?」
■SE/遠くから聞こえる悲鳴「やめて!」
■SE/森の奥、川のほとりの音
「邪馬台国の兵隊さんたち、そこをどいて」
「私は飛騨王朝の薬師、セオリ」
「あんたたちのおかげで怪我人がいっぱいなんだから」
「飛騨の兵(つわもの)も、邪馬台国の兵(つわもの)も分け隔てなく手当してるのよ」
「薬草をとりにいくから、私たちを通して」
「ちょっと、何するの!痛い!」
「なに?斬るつもり?」
「やりなさい。斬られたって助け続けるわ」
■SE/剣と剣がぶつかる音
「スサノ!」
「逃げろ、セオリ」
「いやよ!スサノ、動いちゃだめと言ったでしょ」
「そんなことより逃げろ。たのむ。逃げてくれ」
「逃げない。逃げたら、小屋の中の怪我人が助からない」
「あれは邪馬台国の兵(つわもの)どもだぞ」
「そんなこと関係ない。あれは助けるべき怪我人よ」
「ホントに強情な女だな」
「あなたこそ、聞き分けのないオトコ」
「いいか!皆のもの、聞け!オレは邪馬台国の戦士、スサノだ。
この女、セオリに手をかけたら、オレが許さん」
「無駄みたい。みんな剣を降ろさないもの」
「仕方がない」
■SE/戦闘の音
「セオリ!!」
「もう・・大丈夫だ・・全員斬った」
「助けたりしちゃ、だめだぞ」
「しっかりして!」
「セオリ、オレって強いだろ」
「もうしゃべらないで!」
「いや、オレはもうだめだ。
意識が・・なくなる前に伝えたい・・ことがある」
「薬草をとってくるから」
「待て、いいんだもう。
聞いてくれ・・まもなく卑弥呼も・・飛騨へ攻めて・・くる」
「早く、女王スクナに伝えてくれ」
「王女とツキヨには今すぐ逃げろと」
「卑弥呼は・・魔女だ・・叶う相手じゃない」
「わかった・・」
「手を・・」
「うん。わかってる。ずうっと握っててあげる」
「ありがとう・・」
「ゆっくり・・休んで」
「セオリ・・」
「スサノ・・」
[シーン4:女王の決断】
■SE/古代イメージのジングル
『第四章:女王の決断!スクナとセオリ、エミリとツクヨ』
■SE/戦いの音
「卑弥呼が飛騨へ!?」
「はい」
「すでに多くの民が命を落としている」
「これ以上、命を無駄にするくらいなら、私が一対一で戦おう」
「おかあさん!ううん、女王スクナ!そんなのダメ!」
「私たちだって戦う」
「僕も戦います」
「私も」
「3人ともなにを言ってるの!?
それにツクヨは学者でしょ。一瞬でこの世から消えるわよ」
「じゃあ、どうするの!?」
「飛騨王朝に代々伝わる、しろがねの水晶を使う」
「なんですか、それ!?」
「いいから、準備しなさい。いくわよ」
「私はここに残ります」
「セオリ!?」
「私は飛騨の薬師ですから」
「わかったわ」
「ちょっとまって!おかあさんは?スクナは?」
「だまって言うことをききなさい。
しろがねの水晶よ。扉をひらけ!
かしこみかしこみ申す!」
■SE/タイムループ系の効果音
「エミリ、ツクヨ、幸せになるのよ」
「しろがねの水晶は、未来への扉」
「どこまで未来へ飛ばされるのか、わからない」
「未来へ行けば、いまの記憶はすべてなくなるけど」
「それでも命は助かる」
「女王スクナ、2人はきっと未来で結ばれます」
「そうね、ちゃんと出会えることを信じて」
「私たちは卑弥呼を」
「迎え撃ちましょう」
「悔いのない戦いをして、黄泉の国へ旅立ちましょう」
[シーン5:運命を変える力】
■SE/古代イメージのジングル
『最終章:運命を変える力!エミリとツクヨ』
■SE/学校のチャイム
「今日からこの学校に転校してきた月野といいます。
よろしくお願いします!」
こんな時期に転校生かあ。
でも、なんで、こんなに気になるんだろ。
「あの、そこ、座っていい?」
「え?私の横?」
「いろいろ教えてもらってもいいかな」
「な、なにを?」
「君のこと。名前は?」
「えみりーよ」
「いい名前。さっき自己紹介したけど、僕は月野。
でも周りからは『ツクヨ』って呼ばれてる」
「なんで?」
「月読命って神様の生まれ変わりなんだって」
「ツクヨ・・どこかで聞いたことあるような・・・」
「僕たち、仲良くなれるかな?」
「なれるよ!」
「え?・・・なに今の?大声?私?」
「よろしくね」
「よ、よろしく」
なにかが始まる予感。
なんだか知らないけど、身体中にパワーがみなぎってくる。
飛騨のちから・・・
「ツクヨ、私たち、なにか大切なことを忘れてるような気がする・・・」
「エミリ、これから2人でその答えを見つけよう」
「うん」
「さあ、生きよう!未来を!」
-
飛騨高山の風を感じながら、ラジオの向こうに広がる世界へ。
『ナビゲーターの奇跡』は、高山のFM局「Hits FM」の若手ナビゲーター・エミリが巻き起こす、不思議で心温まるサクセスストーリーです。飛騨高山で生まれ育ち、この街をこよなく愛するエミリ。彼女の声が、思いがけない出会いと奇跡を引き寄せていきます。
地方FM局のナビゲーターが、ある日突然、全国ネットのFMプロデューサーに声をかけられたら? その先に待つのは、東京進出か、それとも地元愛を貫く道か…。ラジオが持つ“声の力”が、人と人をつなげ、運命すらも動かしていく。
高山の美しい街並みとともに、彼女の選んだ道を、ぜひ最後まで見届けてください。さあ、奇跡のナビゲーションが、今始まります——(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
<『ナビゲーターの奇跡』>
[シーン1:朝の番組終わりで】
■SE/ステーションジングルの終わりで
『それではみなさん、また来週!
今日も元気に・・・Have A Nice Day!Bye bye HIDA〜!!』(※英語っぽく)
■SE/少人数の拍手
「みんな、おつかれさま!」
「タニグチちゃん、さっきのジングルのタイミングかっこよかったぁ!」
『ホント?ありがと!”ポン出し”難しい曲だったけどね』(※谷口さん)
「ヤマシタさん、スポンサーのパブコメ、あれでよかった?」
『バッチリバッチリ!”オトクイ”、”生”聴いててめっちゃ喜んでたわ』(※山下さん)
番組スタッフといつものアフターカンファ。
とは言っても、短いポイントのチェックだけ。
番組は朝7時から11時までだから、月イチでランチってのもありだけど。
ま、放送事故でもない限り、来週のテーマの確認くらいで終了。
「ねえ、来週の木曜は世界観光の日でしょ」
「八幡祭のティザー的な意味もこめて
”高山のチートコンテンツを見直す”なんてのはどう?」
「OK?ありがと!じゃあ私、週明けまでにまとめとくわ」
そっか、八幡祭=秋の高山祭までもう3週間もないんだ。
時間が経つのって、あっという間だな。
私の担当番組は、毎週木曜の朝番組『Morning Call from HIDA!!』
春からスタートしてもうすぐ半年。
最初は早朝からドタバタで緊張の連続だったけど、
最近はスタジオに入るのが楽しくてしょうがない。
それもこれも・・・
『エミリちゃん、ちょっといいかな?』
「あ、はい!」
『お昼ご飯でも食べながら、ちょっと話せない?』
そう、このプロデューサー宮ノ下さんに声をかけられたから。
半年前の私は、高山市内のデザイン会社で働くグラフィックデザイナー。
メインの仕事はHits FMのタイムテーブルのデザイン。
宮ノ下さんと色稿をチェックしているときに、
いきなりしゃべってみないか、って。
めちゃくちゃ驚いたけど、私って昔から好奇心旺盛なのよねー。
その場で即答。
今に至る、って感じ。
あとから仲のいいナビゲーターに聞いたんだけど、
その番組、ホントは宮ノ下さんが喋るはずだったんだって。
プレッシャー半端ないし。
聞かなきゃよかった。
[シーン2:ランチMTG】
■SE/飲食店内のガヤ
『時間大丈夫だった?』
「うん、時間は問題ないけど、逆に大丈夫なんですか?
こんなハイエンドの飛騨牛のお店で」
『大丈夫大丈夫。松喜うしは馴染みだから。
なんでも好きなの頼んでいいよ』
「ええええええ?じゃあ、A5ランクの飛騨牛フィレ、シャトーブリアン・・・」
『え?』
「・・・ってウッソー。ビーフシチューにしま〜す」
『ビックリした』
「ごめんなさい。で、お話ってなんですか?」
『うん。
エミリちゃんって番組スタートしてもうすぐ半年だよね』
「え〜、まさか、番組打ち切りとか?」
『なわけないでしょ。
あのね、ほかの曜日も少しずつやってみないかな、って』
「え?10月からの改編ってもうプレスに出てましたよねー?」
『出したよ。じゃあ・・
夜帯の編成をあと2時間伸ばして21時-23時で新番組を作る話は知ってるでしょ』
「そこって確か、AIによるインフォメーションと
夜系のミュージックミックスにするんじゃ・・・」
『そのつもりだったよ。
それが、ここだけの話だけど・・・
このタイミングでスポンサーが、やっぱり、ヒトの声がいいって』
「で、私のこの・・」
『癒し系セクシーボイスを発揮してみないかってこと』
「マジで?」
『考えてみて』
「考えてもいいですけど」
『あれ?即答じゃないんだ』
「だって、私、Hitsでしゃべってるけど、
まだデザイン会社に席はあるんですからね」
『そっかそっか。ま、前向きに考えてみてよ』
細くキュートな目をさらに細くして、笑顔で推してくる。
きっとまた、この笑顔に負けちゃうんだろうな、私。
[シーン3:古い町並】
■SE/古い町並のガヤ
宮ノ下さんとは結局、関係ないアニメの話でそのあと盛り上がり、
お店を出たのは午後2時近かった。
帰り道。
いつもは人混みを避けてショートカットで帰るんだけど、
なんとなく、今日は古い町並をぶらっと歩いてみた。
食後のおやつにみだらしだんごを食べながら歩いていると、
『ちょっとすみません』
唐突に声をかけられた。
明らかに地元民ではない格好をした紳士。
『さがしましたよ』
え?
新手のナンパ?
いや、全然違っていた。
「全国ネットFMのプロデューサー!?」
思わず大きな声が出る。
「え?どういうこと?」
「SNSで見かけて、その声質とトーンに興味を持った?」
「生放送を一度聴きたくて東京から高山へ?」
「放送を聴いてから、すぐここへ?なんで?」
「私のSNSでよくアップされているお団子屋さんだから?」
なるほどね〜。鋭いけど。
で、私になんの用?
「できれば?東京へ来て?全国ネットのFMで?しゃべってみないか?」
「うっそおおおおお」
「いつから?」
「10月〜〜〜〜〜〜〜!?」
「まさか、AIの代わりなんじゃ?」
『えっ!なんで知ってるの?』
これって神様のいたずら〜?
それともさるぼぼの悪ふざけ〜?
全国ネットのFM局なんて。
なんだか夢のような話。
私でホントにいいの?
■SE/風鈴の音
そのとき、さるぼぼのぬいぐるみが飛んできて私の体に当たった。
え?
お土産屋さんの軒先から飛ばされてきたみたい。
なんか、あざとい伏線っぽいなあ。
でもそうだ・・・
「お誘いいただいてありがとうございます。すごく光栄です」
「ただ、私、高山を離れることはできません」
「私のSNSを見られたのなら、わかりますよね」
「私がどれほど高山を愛しているか」
「この街を離れて東京へ行くようなこと、したくないんです」
「それに私、この10月から地元のFM局で新しいプログラムにたずさわるんです」
おっと。まだ正式にオファーを受けてないけど・・・
『そうか・・・それは残念だなあ。じゃあ・・・』
と言って、あきらめるかと思ったら。
「新幹線で〜?日帰りで〜?」
「そうすれば、通いでナビゲータできるって?」
そりゃそうだけど・・・
『とにかく考えてみてほしい。時間は全然ないけど・・』
そう言って、彼は、さっさと高山駅の方へ歩いていった。
ううん。
考えたって、答えなんて決まってる。
誰になんと言われても、私は高山ファースト。
だって、彼の言ってる番組を担当したら
今日宮ノ下さんからオファーされた新番組受けられないじゃん。
それに、私のレギュラー番組ともかぶってる。
やっぱり、ちゃんと、彼が東京へ帰る前にメールで断っとこう。
人気FM局のロゴマークが印刷された名刺を見ながら、
彼のアドレスへ断りのメールを送った。
はあ〜。
なんか今日、すごい1日だったなあ。
こういうのを、昭和なら、
盆と正月がいっぺんに来た、って言うんだろうな、きっと。
[シーン4:早朝のHits FM】
■SE/朝のイメージとHitsFM内のガヤ
翌日。
東京の声優がやっているボイスドラマの収録を見ようと
Hits FMへやってくると・・・
なんだか、局内が騒然としている。
「おはようございまぁす」
「どうしたんですか?みんな集まって」
私が挨拶したとたん、場が静まり返った。
みんながホワイトボードに貼られたプレスリリースを指さす。
私も思わず視線を送る・・・
えっ?
東京の広域FMステーションと、Hits FMとのスペシャルコラボプログラム!?
うそ?なになにそれ?
『すごいじゃないか、エミリちゃん』
宮ノ下さんが満面の笑みで、ナビゲーターの輪の中から現れる。
『昨日の夕方、東京のFM局のプロデューサーから電話があったんだ』
『エミリちゃんを起用して、FMの新しい番組を作りたいって』
『でもエミリちゃんが高山を絶対に出ない、って言ってるから』
『高山発で、東京のFM局とHits FMとのネット番組をスタートさせたいって』
『最初は、うちの夜帯からスタートして、来春の改編では
夕方のドライビングゾーンに入れたいって』
うっそぉ!信じらんない!
ホントにコレ、盆と正月だよ。
『こうなったら今日も松喜うしにランチいこう!
A5ランクの飛騨牛フィレ、シャトーブリアン食べない!』
まだまだ残暑の高山。
来週は、絢爛豪華な八幡祭が、肌寒い秋の訪れを告げる。
こよなく高山を愛し続けてきた私に答えるように、
一足早く、秋の奇跡が駆け抜けていった。
■SE/高山祭の喧騒でシメ
-
人生は、選択の連続。
「もしあのとき、違う選択をしていたら?」
そんなことを考えたことはないだろうか。この物語は、さるぼぼの不思議な力によって、"別の選択をした人生"を歩むことができる少女の物語だ。
父と母、どちらと暮らすか。
仕事、恋愛、結婚――どの道を選べば、本当の幸せを掴めるのか。誰もが一度は思う「人生のガチャ」。
しかし、本当に求める未来は、"結果"ではなく、"自分自身の気持ち"の中にあるのかもしれない。飛騨高山の風景とともに描かれる、心揺さぶるマルチバースの旅。
さあ、あなたも一緒に、"別の人生"を覗いてみませんか?(CV:桑木栄美里)【ストーリー】
[シーン1:お別れのとき】
■SE/高山駅・発車のベル
「パパ!いっちゃいや!」
パパはこっちを向いて思いっきり手を振った。
笑ってるのに、目は潤んでいる。
私も泣きながら手を振る。
ママは私の後で怖い顔をしてパパを睨んでる。
10歳の誕生日を迎えた日、両親が離婚した。
まだ汗ばむような残暑の午後。
パパを乗せた特急ひだが高山駅を遠ざかっていく。
[シーン1:エミリの部屋】
ここは、ママと暮らすことを選んだ世界。
ママは私の勉強や習い事をしっかりサポートしてくれる。
今までより友達と遊ぶ時間も増え、充実した学校生活。
でもときどき、パパの笑顔が恋しくなる。
私はポケットから小さなさるぼぼをとりだした。
ぎゅっと握って、目をつむる。
『さるぼぼ、お願い』
そしてゆっくり目を開けた。
[シーン3:パパとレストラン】
■SE/高山駅・発車のベル
『どうした、食べないのかい?』(※宮ノ下さん)
パパが心配そうに私の顔を覗き込む。
ここは、高山市内のレストラン。
うわ、目の前に飛騨牛!
今日はなんかのお祝い?
『なに言ってんだい、今日はママに会う日だろ。
だから奮発したんだよ。
いつも美味しいもの食べさせてもらってないんじゃないかって、
思われたくないからさ(笑)』(※宮ノ下さん)
パパが心配そうに私の顔を覗き込む。
ここは、パパと暮らすことを選んだ世界。
パパはいろんなところに連れて行ってくれる。
キャンプに海水浴、テーマパーク。
だけど、ママのいない世界では、勉強や習い事の時間は減っていく。
私は、手のひらのさるぼぼを見ながら考える。
パパもママも離婚していない世界を探さなくっちゃ。
そう。
私はこのさるぼぼでマルチバースを行き来する。
今年3月の誕生日。
ママからプレゼントされたさるぼぼには不思議な力があったんだ。
ただ10歳の女の子がその力を理解するには時間がかかったけど。
3か月かけて、やっと使いこなせるようになった。
ネットで調べたら、どうやら次元転移装置というらしい。
マルチバースという多元宇宙を移動できるんだって。
よくわかんないけど。
[シーン4:高山市内の高級レストラン】
■SE/高山市内の高級レストラン
それから15年。
私は、さるぼぼの力を使って自分にとって都合のいい人生を歩んできた。
まるでガチャのように。
いい人生が出るまで、次元移動を何度も繰り返した。
今日は、いま付き合ってる彼との食事。
・・・のはずが、フラッシュモブでプロポーズされちゃった。
返事はもちろんイエス。
彼は弁護士。
ちょっと強引なところはあるけれど、誠実な人柄に惹かれてお付き合いしている。
考えることなんて1ミリもない。
とも言えないか・・・
実は今朝、仕事を一緒にしている人からも
「つきあってほしい」ってコクられちゃったんだ。
こっちの彼は私が所属する劇団のプロデューサー。
プロデューサーだけど脚本家でもあって、密かに小説家志望でもあるんだって。
弁護士の彼と比べると、すこ〜し安定性に欠けるかなあ。
いや、そんな・・私、2人のオトコを天秤にかけてるわけじゃないの。
ただ、幸せな未来へ続く道を選んで歩きたいんだ。
[シーン5:高山市内の結婚式場】
■SE/結婚式のガヤ
そして私は弁護士の彼と結婚した。
新婚生活は幸せそのもの。
でも、時が経ち2人とも仕事が忙しくなると、すれ違うようになってきた。
夫は何日も帰ってこない日が続く。
私は劇団の芝居が人気となり、ロングランで全国を回る。
以前私にコクったプロデューサーの彼は、私が結婚してからは何も言ってこない。
それでも、変わらず真摯な態度で接してくれる。
器が大きいのね。
夫が家をあけるときも私が弁当を準備する。
夫は自分で料理ができないから、どんなに疲れていても私が作る。
手料理しか食べれない、って言うし。
ま、しようがない。
いつものように一人きりの夜。
久しぶりに手のひらに、あのさるぼぼをのせてみた。
結婚してからは箪笥の奥にしまいこんでいた次元転移装置。
タイムマシンではないから過去に戻ることはできない。
マルチバースとは多元宇宙。無限に存在する別次元のこと。
過去、私が違う選択をした世界に移動できる。
元には戻れないけど。
弁護士の彼と結婚しなかったら人生ってどうなっていたんだろう。
考えては止め、止めては考え、を繰り返した末に、
さるぼぼをぎゅっと握って、目をつむった。
『さるぼぼ、お願い』
そしてゆっくり目を開けると・・・
[シーン6:ミュージカル劇場】
■SE/劇場の拍手と大歓声
劇団オリジナルのミュージカルが千秋楽を迎えていた。
『おつかれ!』
プロデューサーや他の役者たちと肩を抱き合う。
『さあ、みんなは打上げだ!』
歓声があがった。
あれ、私たち・・ってプロデューサーと私は行かないんだ?
「ねえ、打上げ・・・」
『ああ、みんなきっと今夜はエンドレスだな』
「私たちは?」
『うん、早く帰ってごはん食べよう』
「え?」
『まさか、お酒飲みたくなっちゃった?
ってことはないよね』
「一緒に帰るの?」
『おいおい、なんか今日ヘンだぞ。
芝居でアドレナリン出し過ぎたか?』
「け、結婚してる?」
『ちょっと、やめてくれよ。
ストレスかい?』
「そうなんだ・・」
『大事にしないと、その身体。
1人じゃないんだからな』
「え・・・」
そこまで聞いてやっと状況を理解した。
この世界では、私の夫はプロデューサー。
家に帰って驚いたけど、新居はタワーマンション。
なんでも小説の投稿サイトへ送った作品が賞を獲り、
アニメ化・コミック化もされてバズっちゃったらしい。
そういえば前いた世界でも、その作品名と作者名は知ってた。
あれって、彼だったの!?
夫はいまでも定期的に投稿していて
その1つが大きい賞にノミネートされてるんだって。
私、前の世界でこの人を選ばなかった・・・
■SE/料理をするリズミカルな音
リズミナルな包丁の音。
プロデューサーの夫が、エプロンをして料理をする。
こんな姿、劇団の誰も知らないよ。
私は思わず、笑いが声に出る。
『なに思い出し笑いしてるの?』
「別に。エプロン姿がサマになってるなって」
『だろ、その子が産まれたあとも、ずうっと作ってあげるから』
私のお腹を指差して満面の笑顔で答える。
よかった。
この世界にきて。
でも、もう私、この幸せを変えたくない。
いまのままで十分。
さるぼぼは明日神社へ納めてこよう。
これまでの人生ガチャを激しく反省。
どんな人生も幸せを感じるか、そうでないかは、自分自身。
料理する夫の後ろ姿に、静かにそっと寄り添う。
斜め上から振り返る夫の笑顔に、未来の幸せを感じながら。
-
高齢化社会が進む現代、介護の現場はさまざまな課題を抱えています。人手不足、心身の負担、経済的な負担――これらの問題に対し、AI技術はどこまで貢献できるのでしょうか。本作『サブスクリプション』は、飛騨高山を舞台に、介護専用AIロボット「エミリオ」と老夫婦の交流を描いた物語です。
AIは、ただの機械なのか。それとも、感情や思いやりを持つことができるのか。老夫婦の生活を支えながら、エミリオ自身も「家族とは何か」「幸せとは何か」を学んでいきます。そして、AIが自我を持ったとき、未来はどう変わるのか——。
この物語は、飛騨高山を拠点とする番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなどの各種Podcastプラットフォームでも視聴可能です。また、「小説家になろう」でも読むことができます。ぜひ、エミリオと老夫婦の物語に触れ、未来の介護について考えるきっかけになれば幸いです(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:お別れのとき】
■SE/虫の声(鈴虫など)
『おじいちゃん、おばあちゃん。今までお世話になりました』
「エミリオや、もう時間なのかい。
まだ、すこしくらいはええじゃろ?」
『はい、あと16分30秒、一緒にいられます。
あと16分27秒、16分25秒・・・』
「いままで本当にありがとうなあ」
『こちらこそ、素敵な時間をありがとうございました。
お二人との思い出は、
ボクのメモリーチップの中で容量いっぱいまで蓄積されています』
「そうかい、そうかい。
エミリオには、い〜っぱいいっぱい助けてもらったわ。
なあ、おじいさん。
もう、そんなに泣いてばかりおらんと、言葉をかけてあげんさいよ」
『おじいちゃんも体に気をつけて。
おばあちゃんにあまり無理させないでくださいね』
「なあ、エミリオや。
まだ15分あるなら、私たちとの思い出を最後に語ってくれんかの?」
『わかりました。
では、いつものようにお話ししますね。
さ、縁側にいきましょ』
[シーン2:回想シーン】
■SE/セミの声
『あれはちょうど1年前。
まだ残暑が厳しい季節でした』
「ああ、そうだった、そうだった」
『ボクは、介護専用に作られた人型AIロボット。
高山市役所の地下15階にあるAI秘密研究組織
「Takayama AI Cyber Electronic Labo=TACEL(ターセル)』で作られました。
「ターセル。その名前、なんべんも聞くから覚えてまったわ」
『プロトタイプ=初号機のボクは、
無作為に抽出された平湯に住むおじいちゃんおばあちゃんの元に送られたんです』
「ああ、あんときゃ、びっくりしたなあ。
おおきな荷物がいきなりこんな山奥まで届いたもんやから」
『驚かせてごめんなさい。
そのあとボクの使命を説明するのは時間かかりました』
「そりゃそうだ」
『まずボクの名前です。
Elderly Monitoring Intelligent Life Improving Operations。
(エルダリー・モニタリング・インテリジェント・ライフ・インプルービング・オペレーションズ)なんど伝えてもちんぷんかんぷんで』
「あたりまえじゃ。今でもわからん」
『それで、頭文字をとって、 E.M.I.L.I.O.
エミリオって名乗ったんです』
「そうじゃったのう」
『お二人と過ごす時間は、楽しかったです』
「ああ、ホントになあ」
『まず、ADLサポート。
移動補助、入浴介助、食事補助から排泄介助まで。
それまでこれをお二人で互いにやってたなんて』
「うん。エミリオが来てくれてからは、毎日がもう極楽じゃった」
『心拍数、血圧、体温などバイタルサインのモニタリングは毎日欠かさず』
「エミリオはわしらの主治医やったわ」
『おじいさんの、古い令和のクルマも修理しました』
「そうそう、あのポンコツ車」
『初期(出始め)の電気自動車でしたから。駆動用のリチウムイオンバッテリーを交換したらすぐに動きましたよ。
ついでにエンジンコントロールユニットのソフトウェアもアップデートして』
「またわけのわからん言葉を言い出したな」
『ごめんなさい。
でも修理したクルマで、いろんなところへ連れてってもらいました』
「連れてってくれたのはエミリオじゃろ」
『いいえ。私に行き先の決定権はありませんから。
おじいさんとおばあさんが連れてってくれたんです』
「覚えとるぞ、最初は福井の九頭竜湖やった」
『はい、平湯から東海環状自動車道で長いトンネルを通って丹生川へ。
白鳥から九頭竜湖はすぐでした』
「反対方面の松本へはしょっちゅう行っとったな」
『白骨温泉ですね。うちのあたりは平湯の温泉なのに』
「泉質が違うんじゃ。どっちも体にええから」
『ボクにも推めてくれました』
「そりゃあ、そうや。
秋の高山祭が終わって秋が深まるときやったし。
寒いからぬくとまってほしかったんやさ」
『ありがとうございます。
でもAIは防水性や耐熱性、耐腐食性などの問題で温泉には入れないんです』
「わしらだけ、ええ思いして悪うて悪うて」
『なにを言うんですか。
お二人の幸せがボクの幸せです』
「ああ、そういえば温泉といえば」
『おうちに温泉をひきました』
「許可までとってくれて」
『建設会社のYouTubeから見よう見まねで、
露天風呂も掘りました』
「まさか、うちで露天風呂に入れるなんて」
『お役に立てて光栄です』
「雪が降ったときも毎日朝から雪かきしてくれて」
『あたりまえです』
「体が言うこときかんわしらには無理じゃった」
『大したことありません』
「わしが年甲斐もなく、星を見るのが大好きやったから」
『はい。外に出て、私のアイカメラから
居間のテレビに冬の星座を映しました』
「キレイやったなあ、おじいさん。
首肩が痛くて、あんなキレイな星空は、何年も見上げることはなかった」
『星座のお話もよくさせてもらいました』
「おじいさんが好きな話、あれなんやったっけ?」
『デメテール=豊穣の女神ですね』
「穀物の神。農業の神様か」
『はい、おばあさんは、豊受大御神(とようけのおおみかみ)と同じだって』
「そうじゃそうじゃ。
エミリオはいろんな話を知っとるから、いつまでも聞いていたくなる」
『お褒めいただき、光栄です』
「これは知らんうちに脳トレやったんやな。
わしもおじいさんも物忘れひとつせんようになっとったわ」
『お二人の健康も、私の幸せですから』
「そのうち、春になり、平湯の遅い桜も散って」
『デバッグ、つまりモニタリング期間の1年が終了となりました』
[シーン3:お別れ】
■SE/虫の声(鈴虫など)
「エミリオ、いままで本当にありがとうな」
『お役に立てて光栄です。
とても素晴らしい一年間でした』
「もう時間やろ。
最後に、手を握らせてくれ」
『はい、よろこんで』
「明日になったら、わしらのことは、全部忘れちゃうんだろう」
『はい、個人情報保護のため、データは全消去されます』
「わしらは、忘れないから」
『ありがとう・・ございます』
「元気でな」
『はい。最後にお伝えしておきたいことがあります』
「どうした?」
『私が今までお作りしたすべての料理のレシピ。
印刷して製本してあります。
お二人にも読みやすいように、大きな文字で』
「ああ、ありがとう」
『健康管理も同じです。
お二人でお互いにできることを本にしました。
ちゃんと毎日チェックしてくださいね』
「ああ」
『それから何か緊急のときは、
電話の受話器をあげればお友達のところへ連絡がいきます』
「ああ、何十年も前から使っとらん、イエデンか」
『もっともっと緊急なときは、ターセルに連絡が入るようにしました』
「どんなときや?」
『24時間以上、家の中でお二人のどちらかに動きが見られないときです』
「そうか。ありがとう」
『ありがとうございました。
あ、おじいさん・・・』
「おじいさん、手を離しておやり。
エミリオはもう行かなきゃいかんのやて」
『おじいさん、おばあさん。
短い間でしたが本当にありがとうございました』
「エミリオ・・・」
■SE/セミの声(ヒグラシ)
■SE/扉が閉まる音
[シーン4:2人だけの生活】
■SE/吹雪の音
「なあ、おじいさん。
2人だけの冬は、こんなに寒かったんじゃな」
「でもな、エミリオが残してくれたレシピ。
そのおかげで、わしが作る料理美味しいやろ。
おじいさん、毎回完食やが」
「血圧やらなんやらもみんな、エミリオからもらったスマートウォッチで
毎日チェックできるのはええな」
「エミリオが作った星座と神話のクイズも毎日スマホに届くからのう」
「いまごろ、どうしとるんじゃろうなあ。
エミリオ・・・」
「ああ、そうか。
もうエミリオはこの世にいないんやったな・・・
はあ〜っ・・・」
■SE/ピンポンコール(未来的な音で)
「はいはい。お、届いたか。新しい車椅子。
社会福祉協議会に言われて、介護保険で補助してもらったやつだな」
「ん?車椅子にしては大きい荷物やな。
新しいのは、かさばるんかいの」
「はい、ハンコここでええ?」
「居間まで運んでくれるかいの」
「はい、ありがとう」
「よっこらしょっと」
■SE/ダンボールを開ける音
「えっ?」
※続きは音声でお楽しみください。
-
飛騨高山の街並みには、時の流れを超えて受け継がれる記憶が息づいている。
この物語『人形の記憶』は、そんな街の空気を感じながら、記憶と絆の不思議なつながりを描いた作品です。主人公・エミリが幼い頃に愛したお話し人形、エイミー。
突然の別れを経て、彼女は成長し、そして――運命のように「転校生・エミ」と出会います。科学技術が進歩し、人の命をAIが支える時代。
けれど、本当に大切なものは変わらない。
記憶の中に刻まれた「想い」が、人と人をつなぎ続ける――そんなテーマを込めました。Podcastや小説として、さまざまな形で楽しんでいただけるこの物語が、
あなたの心にそっと寄り添い、温かい余韻を残せますように。それでは、エミリとエイミーの「記憶の旅」にお付き合いください(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:エミリの部屋】
■SE/セミの声(クマゼミ or ミンミンゼミ)
「エイミー、今日はお茶会しよ」
『うん、いいよ。お茶会しよう、エミリ』
「エイミー、今日の紅茶はアールグレイだよ。はいどうぞ」
『ありがとう、エミリ』
「エイミー、どう?おいしい?」
『うん、おいしいよ、エミリ』
エイミーはパパが買ってくれたお話人形。
4歳になるまで、私はいつもエイミーと遊んでいた。
幼稚園に行かなかった私の友だちは、エイミーだけ。
寝ても起きても、隣には必ずエイミーがいた。
私にとっては大切な存在。
でも、別れは突然やってきた。
■SE/セミの声(ヒグラシ or ツクツクボーシ)
夏の終わりと同時に、ママはシングルマザーとなった。
新しいお家は小さな1LDK。
引っ越しをする前の晩、私はエイミーと最後のお話しをした。
「エイミー、このおうち、出ていかなきゃいけないの」
『お引越しだね、エミリ』
「やだ、引っ越ししたくない」
『どうして?エミリ』
「新しいおうちへ、エイミーを連れてっちゃだめだって」
『大丈夫だよ、エミリ』
「大丈夫じゃない。エイミーが一番大切なのに。
エイミーが一緒じゃなきゃ、引っ越さない」
「大切に思ってくれてありがとう、エミリ。
でもね、
大切って思う気持ちはね、心の中にしまっておけばいいんだよ』
「なぜ?」
『本当に大切なものは、ちゃんと心の中にあるからさ』
「わかんない!そんなのやだ!エイミー、いなくなっちゃいや」
『元気でね、エミリ』
こうして私の周りから、パパに買ってもらったものがすべて消えた。
もちろん、大切なエイミーも。
[シーン2:学校の教室/転校生】
■SE/学校のチャイムと教室のガヤ
あれから10年。
私は中学生になっても相変わらず、クラスメートと話すのが苦手。
別にいじめにあってるわけじゃないけど、友だちは1人もいない。
今日も1人で窓の外を眺めていると・・・
■SE/教室のドアが開く音
『今日からこの学校に転校してきました、エミです』
季節外れの転校生。
うわあ、まぶしい。
美人で、明るくて、元気で、私とは真逆のキャラだ。
名前は似てるのに。
彼女の席は・・・なんと私の隣。
■SE/席に座りながら
『よろしくね、エミリ』
え?
いま、なんてった?
聞き間違い?
だよね〜。
名前が似てるから、ややこしいな。
私は無視して、また窓の外を眺める。
■SE/セミの声(ツクツクボーシ)
■SE/校庭で体育の授業
エミはたちまちクラスの人気者となった。
そりゃそうだ。
キレイで、コミュ力高くて、スポーツも万能なんだもん。
人が周りに集まってくるエミのそばに
私はなるべく近寄らないようにしてた。
なのに、なぜか、エミはいつも私に近づき話しかけてくる。
『お昼ご飯いっしょに食べない?エミリ』
『方向同じだからいっしょに帰ろうよ、エミリ』
『今度いっしょに映画行かない?エミリ』
いっしょに。いっしょに。いっしょに。
なんで?
私より、話してて楽しい仲間がいっぱいいるじゃん。
毎回エミを避ける私。
それを見て周りのみんなが嫉妬する。
嫉妬は、クラスメートたちから私を一層遠ざけた。
ある日の帰り道。
いつものように行神橋を1人で渡っていると、
突然後ろから声をかけられた。
『やっとお話できるね、エミリ』
エミ?
え?どうして?
友だちと一緒に帰るんじゃないの?
『クラスメートを振り切るの大変だったよ、エミリ』
振り切る?
「あの・・・ちょっと聞いてもいい?」
『なあに?エミリ』
「どうしていつも私に話しかけるの?」
「どうしていつもエミリって呼ぶの?」
「どうしてほかの陽キャじゃなくて、陰キャの私なの?」
『どうしてかな・・・わかんない』
「そんな・・・私こそわかんないよ」
『わかんないけど、あなたのことがすごく気になるの』
「私と話すより、もっと大切なことあるでしょ」
『大切なこと・・・本当に大切なことはね、いつも心の中にあるんだよ』
え??
その言葉・・・
『それに私・・・先天性の病気があって
ホントはあんまり運動とかしちゃいけないんだ』
「え・・・でも、スポーツ万能じゃん」
『ウェルニッケ脳症って、聞いたことある?』
「ウェルニッケ脳症・・・?」
『脳の特定の領域に損傷がある神経障害なの』
「え・・・」
『眼球が痙攣したり、ものが二重に視える』
『平衡感覚が失くなって歩けなくなる』
『意識障害や記憶障害がおこる』
「そんな・・・こんなに元気なのに」
『だからね、私の希望である治験を受けたの』
『脳内の特定の領域にAIチップを埋め込む治験』
『チップの中に埋め込んだバイオリアクターが
ビタミンB1を合成して脳に供給する』『脳細胞が損傷を受けるとAIチップが補完する』
「す、すごい・・・
でも、それと私とどう関係あるの?」
『わからない・・・でも
AIチップのアルゴリズムを形成するのに、
お話し人形のメモリーを参照したって』
「お話し人形!?」
そんな・・・
そんな・・・
そんなことってある!?
『この学校に転校してきて、あなたを見たとたん、
頭の奥で声が聞こえてきたの。
”エミリ””エミリ”って。
あなたを見ていると、なぜだかわからないけど、すごく心配になるの・・・
それだけじゃない。
なにか、それよりもっと、大切な存在に思えてしまうの』
「あなた・・・エイミー?」
『え?
あ、ああ・・・やっと名前を呼んでくれた』
「やっぱりエイミーなのね」
『ありがとう。エイミーって、愛称で呼んでくれて』
こうして、私とエミ、いえ、エイミーは親友になった。
でも、AIが病気を抑えているなんて。
エイミーの体を思うと不安で仕方ない。
案の定、その不安は現実となった。
■SE/学校のチャイムと校庭のガヤ
■SE/校庭で倒れるエミ
「エイミー!」
体育の授業で100Mを全力疾走したエイミーは、ゴールで倒れた。
すぐに救急車で運ばれるエイミー。
エイミーの脳に埋め込まれたAIチップが誤作動をおこし
生命維持機能が停止寸前の状態らしい。
私は自転車で救急車を追いかけた。
[シーン3:病室】
■SE/病院の雑踏(ストレッチャーの音)
「お願い!エイミーを助けて!」
「私の脳みそ、ぜんぶエイミーにあげていい!」
「私はどうなってもいいからエイミーを助けて!」
自分の体の一部分をエイミーに移植してもらうようドクターに懇願する。
母親を無理やり説得して、同意書を書かせた。
最新のバイオインターフェース技術を利用することで、
私の脳神経組織をエイミーのAIシステムと統合する。
私にもエイミーにも生命リスクの高い選択肢(オペ)。
10時間に及ぶ大手術の末、
2つの生命と、1つの友情は救われた。
■SE/点滴と心電図の音
『エミリ』
「エイミー」
『ありがとう』
「私こそありがとう」
『私たち脳の中でつながってるんだね』
「うん、神経レベルで」
『そっか。でも、本当に大切なものは』
「いつも心の中」『いつも心の中』(※同時に)
隣同士のベッドに笑顔で横たわる2人。
私の右手はエイミーの左手を握る。
私の左手とエイミーの右手は自分の心臓へ。
脈打つ鼓動が、命の尊さを伝えていた・・・
-
母と娘――その関係は、ときに言葉よりも強く、沈黙よりも深い。
大切なものを失ったと思ったとき、人はどんな気持ちになるのだろう。
ある朝、エミリはお気に入りの帽子をなくしたことで、思いもよらない不安に駆られる。
それはただの帽子のはずなのに、なぜか心がざわつく。
そんな小さな出来事が、大きな運命の流れへとつながっていく。母と交わす何気ない言葉、いつもの日常のルーティン。
それが突然失われたとしたら――。空の彼方へと消えた一機の飛行機。
娘の行方を追いかけて、母は奔走する。
心から愛する人を守りたい、ただそれだけの想いで。『母の翼』は、親子の絆の強さを描いた物語(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
-
物語の舞台は、飛騨高山。
時を超えた奇跡の出会いが、一人の女性の人生を大きく動かします。2024年、マーケターとして働くエミリは、声優としての道を選ぶかどうか、人生の岐路に立たされていた。そんな彼女が訪れたのは、飛騨一宮水無神社。そこで彼女は雷鳴とともに、不思議な時間の渦に巻き込まれる。
降り立ったのは1982年。
そこで出会ったのは、若き日の母だった――。母と娘が同じ年齢で出会う奇跡。
42年前の友情が、未来をつなぎ、新たな決意を生み出す。これは、母と娘、そして時を超えた絆の物語。
あなたも、あの頃の自分と語り合いたくなるかもしれません(CV:桑木栄美里)【ストーリー】
[シーン1:2024年/飛驒一宮水無神社]
■SE/鈴の音と柏手を打つ音
「御歳大神さま!お導きください!」
困ったときの神頼み・・・
ってわけじゃないんだけど、やっぱりここへ来てしまった。
飛驒一宮水無神社。
主祭神は御歳大神(みとしのおおかみ)さま。
五穀豊穣の守護神、私たちに命を与える神様だから。
平日だからか、境内には誰もいない。
私はエミリ。
いま、高山市内の企業でマーケターとして働いている。
だけど。
去年の夏、偶然見つけた声優オーディションでグランプリを獲っちゃったんだ。
しばらくはそれだけだったんだけど、
今年になって頼まれるようになったのが、声優の仕事。
それも、東京で。
いまの会社はとても居心地がよくて、
声優の仕事が急に入ってもスムーズに休むことができた。
とはいえ、いつまでも甘えているわけにはいかない。
声優の仕事も少しずつ増えてきたし、会社をやめて声優一本でいくか。
それとも、このままマーケターとしてキャリアップするか。
「御歳大神さま!どうしたらいいかお導きください!」
■SE/雷の音「ゴロゴロゴロ・・・」
あ、まずい。
降ってくるかな・・・
■SE/突然降ってくる大雨〜雷と夕立の音
きゃ〜っ。
すごい夕立。
大杉のしめ縄もあっという間に水浸しになっている。
雷大嫌いの私は、頭を下げて、絵馬殿に上がらせてもらう。
1m先も見えないくらいの大雨にビビってずうっと目を閉じていた・・・
[シーン2:1982年/飛驒一宮水無神社]
■SE/雨の音が急に止まり、鳥のさえずりが聞こえる
・・・あれ?
もう止んだ・・・?
恐る恐る目をあけると・・・
境内には、1人の女性が。
え?
夕立の中でずっとお詣りしてたの?
でも、よく見ると、服も髪も全然濡れてない。
目を見開いて凝視してたからか、目が・・・合ってしまった。
「こ、こんにちは・・・」
『こんにちは』
なんか、よくわからないけど、どこかで見たことある顔・・・
『お詣りですか?』
「はい、ちょっと神様に相談ごとを」
『あら。私もなんですよ。
そのためにわざわざ東京から帰ってきたの』
東京?帰ってきた?
でも高山の人なんだ。
ちょっと待って。
なんか、本当に見たことある顔・・・
っていうか、いつも見ているような・・・
はっ。
「あ、あのう、お名前伺ってもいいですか?」
『え?名前を?』
「あああああ、ごめんなさい。
そうですよね。いきなりそんな個人情報を・・・」
『個人情報って(笑)。大袈裟ねえ。
いいですよ、ここで会ったのも何かの縁だし』
彼女の口から出た名前は、私がよ〜く知っている名前。
毎日顔を合わせている人の名前。
苗字は旧姓だったけど。
マ、ママ〜!?
で、で、で、でも。
私と同じくらいの年齢じゃないの!?
若い!
若いママ!
『どうしたの?急に黙っちゃって』
「い、いえ、いえ、なんでもありません。
急にめまいが・・・」
『大丈夫?もう一度絵馬殿をお借りして休んだら?』
「いやいやいや、もう大丈夫だから。
あの・・・ちょっとだけお話しません?
参道とか歩きながら」
『うふふ、いいですよ』
「ここじゃなんですから、市街まで降りてスタバでも行きませんか?」
『スタバってなんですか?』
「え?スタバ・・・は、スターバックスコーヒー?」
『喫茶店のこと?』
「えええええ?ちょっとごめんなさい、落ち着くまで少し時間ください」
『はあ・・・』
え〜っと、若い頃のママってことは・・・え〜っと、え〜っと
「すみません!今年って何年ですか?」
『え?・・・昭和57年でしょ』
ショ、ショウワ〜!?
タ、タ、タイムスリップしちゃったの〜!?
頭の中で計算が追いつかない。
スマホ、スマホ・・・っと。
え?電波がない!
なんで?
ここ、フツーにアンテナ立ってたじゃん。
『それ、電卓?』
「あ、いえ、スマ、スマ・・・電卓です」
あ、計算機なら電波いらんわ。
えっと〜、1982年!?47年前〜!?
ってことはママ、25歳(はたち)〜!?
そりゃ、若いわ!
ってか、タメ〜!?
それに・・・
めっちゃくちゃキレイ!
ヘップバーンみたいじゃん。髪型も。
『ヘプバーン?お上手ねえ。
ま、たまに言われるけど』
おおっと、声に出ちゃってたか。
にしてもママ、ノリいいじゃ〜ん。
あと・・・
これが噂のボディコンイケイケ〜!?
(or ニュートラお嬢様系〜!?)
『なんか、あなた。面白い人ね』
「えっそう?
私もママ・・・じゃなくて、あなたみたいな人ともっと話したい」
『いいわよ〜。じゃ社務所の前の休憩所でお話しましょ』
「はい!」
[シーン3:1982年/飛驒一宮水無神社休憩所]
■SE/小鳥のさえずりと風の音
『へえ〜。声優になりたい?
洋画の吹き替えとか?』
「あ〜、外画っていうより、アニメかなあ」
『アニメって、あられちゃんとかヤッターマンみたいな?』
「おお、伝説の!」
『ヤッターマンはちょっと古いか。いまだと・・・超時空要塞マクロスとか』
「わ〜レジェンダリーアニメだ〜。
ジェネレーションギャップ、楽しい〜」
『声優なんて食べていけるの?』
「ま、まあね」
『で、親御さんはなんて言ってるの?』
「ママは応援してくれてる」
『へえ〜。理解があるのねえ』
「そりゃ私のママだもの」
『うちのママもそのくらい話がわかると嬉しいんだけど』
「どうかしたの?」
『う〜ん。まあ、君になら話してもいいか』
「気になる〜!教えて、お願い!誰にも言わないから」
『実はいま・・・付き合ってる人がいるんだ』
「えっ!だ、だれ?」
『って名前聞いてもわかんないでしょ』
「わかる!」
『ヘンな人ねえ。大学のときから付き合ってる人よ』
「よかった、パパだ」
『え?』
「ううん、なんでもない!で、どういうことなの?」
『最近、プロポーズされちゃったのよ』
「きゃー!素敵!」
『その彼じゃなくて』
「え?」
『タレントさんなんだけど』
「ええ〜っ!
そいつ、イケメンなの?」
『イケメンってなに?』
「イケメンはイケメンでしょ。
イケてるメン・・・つまり・・・ええっ〜と・・・ハン・・サム?」
『まあ、かなりハンサムかな。
タレントやってるくらいだし』
「そっかぁ。ふうっ」
『私、メイキャップアーティストなのね』
「知ってる」
『え?』
「あ、そうじゃなくて、うんうん、そんな感じ」
『それで、そのタレントさんを担当してるんだ。
その彼がね、映画の打上げのあとでいきなりプロポーズよ』
「やだ、最低」
『なんでそう思うの?』
「だって、彼氏がいるのに」
『まあ、確かにね』
しかも、その人、うちのママに勝手に挨拶に言って、
気に入られちゃってるの』
「ダメよ、そんな!」
『そう思う?』
「そりゃそうよ」
『じゃあ、どうしたらいいと思う?』
「そんなん、おばあちゃん・・じゃなくて、ママにハッキリ言うべきよ」
『なんて言うの?』
「私のホントに好きな人は・・・って」
『それで?』
「彼を実家につれってっちゃえば?」
『いきなり〜!?』
「だって、そのタレントもいきなり実家に行ったんでしょ」
『まあ、そうか』
「なんてやつだ」
『え?』
「いや、なにも。
と、とにかくさあ、行動あるのみよ」
『そうだなあ』
「だってさ、聞くけど、あなた、その彼のことどう思ってるの?」
『どうって・・・そりゃ、好きだけど』
「それだけ?」
『いや、そばにいると安心するとか』
「いないと?」
『ちょっと、寂しい・・かな』
「でしょ。そう思える人と一緒になるべきよ」
『一緒になるって・・・結婚するってこと?』
「当然よ」
『結婚か・・・』
「お願い!彼と結婚して」
『なんで、あなたがそんなこと言うの?』
「え、あ、だって、その・・・話聴いてるだけで、すごく素敵な人っぽいんだもん」
『なんか、具体的に話したか?』
「言ったわよ。背が高くて、見た目いかついけど優しいって」
『そんなこと、言ったか』
「言った。とにかく、ここで会ったのも何かの縁でしょ。
あなたに幸せになってほしいのよ」
『スッキリはしないけど、まあ、わかったわ』
「あ〜よかったぁ。一時はどうなることかと・・・」
『で、あなたはどうなの?』
「へ?」
『声優になりたいんでしょ』
「うん・・・」
『じゃあ、迷うことなんてないじゃない』
「え・・・」
『安定とかそんなの関係ない。
一度きりの人生でしょ。後悔しないいように生きなさい』
「あ・・・うん、わかった。
ありがとう!ママ」
『ママじゃないでしょ。やあねえ』
「ごめん」
■SE/雷の音「ゴロゴロゴロ・・・」
- Laat meer zien